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万華鏡の数学

投稿日時: 2020/06/22 システム管理者

■万華鏡映像の美しさが我々の心をとらえるのは,「空間の完璧な対称性」のせいだけではありません.時間の流れとともに映し出される「千変万化だが一度きり」の映像に,生命を感じるからでもありましょう.
ワンドの中を降り行くすべてのガラス屑の運命は,運動方程式ですべて定まっているとはいえ,ときおりカオスの起こる期待に目が離せません.万華鏡は,対称性(秩序)とカオス(乱れ)の混在が魅力なのです.そして,合わせ鏡が生みだす完璧な秩序は,無限に繰り返される“結晶世界”に迷い込んだようでもあります.
万華鏡 “カレイドスコープ”は,物理学者ブリュースター卿の特許(1817)[発明は1816年]が起源です.特許には,2枚の合わせ鏡の交差角θ°が,360°を偶数で割り切る角度にする:
$$360/θ=2n$$,だたし,$$n=2,3,4,・・・$$ということが書かれています.


■平面群と市松模様
本来の市松模様はチェス盤のように正方格子が交互に塗り分けられたものですが,
3角格子などの場合でも交互に塗り分けられていれば市松模様と呼ぶことにします.
Fig1 


これらは皆,市松模様と呼ぶことになります.頂点で偶数個のタイルが会合している場合に市松模様が作れます.この状況は,ブリュースターの特許の「合わせ鏡の交差角θ°が,360°を偶数で割り切る角度」と同じことです.


万華鏡は鏡(位数2の対称操作)の組み合わせだけで作られます.
物体が1回鏡で反射すると鏡像(向きが裏返る),2回反射すると鏡像の鏡像になり始めの向きと同じになります.
市松模様の黒-白は,物体のある鏡室タイル(グレイ色)と同じ向き="正置像”を黒;鏡像=“裏返像”を白に塗り分けています.

■正方形の鏡室の万華鏡がつくる市松模様
Fig2 http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/556602/27/17073327/img_8_m?1446474652
図(1)万華鏡の鏡室タイルをグレイの正方形とします.
鏡室のフチの赤線は鏡(4枚)です.
図(2)1回の反射で4個のタイルの裏返像(黄色)が生まれます.
図(3)2回の反射で,その外側に8個のタイルの正置像(緑色)が生まれます.
図(4)3回の反射で,その外側に12個のタイルの裏返像(黄色)が生まれます.
このようにして,鏡室タイルはその鏡像を全平面に広げて行き,
平面を市松模様で塗りつぶします.

■3角形の鏡室の万華鏡は市松模様をつくるか?
Fig3 http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/556602/27/17073327/img_9_m?1446474652
1.左図の鏡室3角形ABCは90°30°60°の3角形です.
各頂点で3角形が偶数個集まっています.3つの頂点のまわりはどれも市松模様ができており,
全平面が市松模様であることがわかります.
2.右図の鏡室3角形ABCは45°60°75°の3角形で,
AおよびBのまわりは3角形が偶数個集まりますが,Cのまわりでは偶数個あつまりません.
そのため,全平面では市松模様が出来ないことがわかります.
3.鏡映操作の集合が平面群を作っている場合は,全平面が市松模様になりますが,
逆に,市松模様が何処かで乱れているなら,その鏡の組み合わせは平面群が作れない場合です.
そのような万華鏡のもう一つの例を(Fig4)に示します.
Fig4 http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/556602/27/17073327/img_2_m?1446474652