■群の考え方は色々な数学分野に現れます.そして,群論が適用される対象も様々な分野にあります.
群論を作ったのは天才ガロアで,群論は代数方程式の解法にかかわって生まれました.2次方程式,3次方程式,4次方程式は,その解法が発見されていましたが,5次方程式の解法はどうしても見つけられないでいた時代のことです.
f(x)=x^5+ax^4+bx^3+cx^2+dx+eという5次式は,連続なグラフで,
xが負の方向に絶対値が大きくなれば,f(x)<0,xが正の方向に絶対値が大きければ,f(x)>0になるので,グラフy=f(x)はどこかでx軸を過るはずです.5次方程式f(x)=0には必ず1つの解xが存在し,そのxは係数で表されるはずだと誰もが思っていました.しかし,係数の加減乗除と冪根で表せる解は存在しなかったのです.1820年,アーベルは「5次以上の方程式には解の公式は存在しない」という証明を自費出版しました.アーベルは注目を浴びることなく1829年結核で死亡します.
根の対称性に注目し,群の理論を作り,これを証明したのはガロワですが,ガロワはこの証明を残して,決闘の銃弾により20歳で死亡します.1832年のことでした.
群論が生まれるまでに,ラグランジュ(1770),コーシー,アーベル,ガロア(1832)が関わっています.
■群論が生まれたのは,方程式の解法に関する分野でしたが,
群の概念は,正多面体の対称性(シンメトリー)と相性がよく,この応用の現場で群論を理解するのが良いと思います.結晶は原子や分子で構成される周期的な世界です.無限に繰り返す周期的な空間(結晶空間とも呼ぶ)には,構造の単位となるものが存在し(単位胞と呼ぶ),単位胞が周期的に積み重なって周期的な空間を作ります.単位胞を1つの点で表示すると,周期的な空間は点が配列した格子になるでしょう.つまり,周期的な空間は,(連続な空間ではなく)デジタル化された空間であるといえます.
結晶空間という舞台は,対称操作の集合が作る群という数学系が活躍するのに絶好な分野です.というわけで,結晶空間で群論が活躍するのを具体的に見て行きましょう.
■古典的結晶学について
水晶のいろいろな面の大きさは個体ごとに違うが,「対応する面どうしのなす角度を測ると,どの水晶でも同じ値だ」ということを発見したのはステノ(1669).この現象を,多くの鉱物で調べて「面角一定の法則」としたのは,ロメデリル(1772)です.
この法則は,「結晶の内部構造に原因がある」と洞察したのがアウイ(1783)で,彼は「結晶には単位胞が存在し.この単位胞が繰り返し並ぶブロック細工のようなものだ」と推論しました.
19世紀に入ると,結晶に座標軸(結晶軸)を導入し,結晶面に指数をつける方法が種々定義されました.それらの方法のうち,ミラー (1801~1880〉によるミラー指数が,今日,最も広く用いられています.
「その結晶の単位胞の形に合った座標軸を決めると,すべての結晶面のミラー指数は,簡単な整数で表せる」=結晶面の有理指数の法則といいます.
これは,アウイの述べた「結晶=ブロック細工説」を裏付けるすることにほかなりません.
この時期には, 結晶面の方位(=結晶内部に置いた原点から,各結晶面へ垂線を立てて,結晶内部の原点を中心とした単位球表面に投影する)を,2次元平面へ写像する種々の等角投影法(ステレオ投影など)も生まれています.
3次元の結晶点群は32種(ヘッセル,1830〉,3次元の空間格子(結晶格子)のタイプ=ブラべ格子(1848)は14種が数え上げられ,続いて,3次元の空間群の夕イプが230種であることが,フェドロフ,シェンフ リーズ,バーロー(1885~1894〉により(3名は互いに独立に研究した)数え上げられました.これらは,すべてX線の発見(1895)以前の純粋な数学的業績であるのが興味深いことです.ラウエの回折実験(1912)は,結晶が周期的な内部構造であることの決定的な証拠です.
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今後の計画
空間群をΦとすると,並進群(格子)Tは,空間群Φに正規部分群として含まれるので,並進を法とした群Φ/Tは,点群Gに同型である.ということを徐々に説明します.