キューリー夫人は皆さまご存じでしょう.マリ・キューリーの夫の
ピエール・キューリーは,私の最も好きな科学者の一人です.
キューリーの原理も学生の頃からずっと心を奪われている事柄です.
水晶などの結晶に圧力をかけると電位が発生する圧電効果(ピエゾ効果)の発見で有名です.水晶振動子はこの性質を使ったデバイスです.
半導体や誘電体など色々な材料で,色々なデバイスが作られます.
例えば,半導体結晶を舞台にして,光子や電子が演じるパフォーマンス
を制御利用して,種々の半導体デバイスが作られます.舞台となる結晶世界は周期的なデジタル世界です.(周期的な空間は「結晶空間」とも呼ばれます)
周期的空間の数学(対称性)はとても重要で魅力的です.
この分野では,フェドロフ,シュブニコフ,ベーロフ,ザモルザエフなどの学者を輩出したロシアに伝統があり,1970年代にはロシアの本を一生懸命勉強したものです.
結晶の幾何学(古典結晶学の歴史)を,速足でレビューしましたが,
ここで,「キューリーの原理」について紹介しようと思います.
色々な「系(もの)」や「そこで起こる現象(こと)」の理解に,「対称性」の考え方が使われます.
ピエール・キューリーは,“結晶という舞台”で起こる”物理現象の対称性”を研究しました(1894).水晶結晶の圧電効果(対称心のある構造では起こりません)はその例です.
「舞台の対称性は,その舞台で起こる現象の対称性に反映されるべきだ」という因果律は,キューリーの原理と呼ばれます.
色々な分野で,原因(舞台)と結果(現象)のそれぞれの対称性の間でこの因果律がなりたちます.例えば,原因(結晶)の対称性G_cryst,結果(その結晶で起こる現象)の対称性G_pとすると,G_cryst⊆G_pです.
この逆が成り立たないのは,結果には注目している原因の他にも別の原因が反映されてもかまわないからです.
例えば,結晶にX線ビームをあてたとき,結晶を通過したX線の作る回折パターンの対称性には,その原因となった結晶の対称性が反映されています.
あるいは,運動量保存則が成り立つのは,空間が無限に広く一様であり,
平行移動しても環境が変わらないからです.
エネルギー保存則が成り立つのは,時間に関して変化がない時です.
因果律のいろいろな例を思いつくでしょう.舞台環境とそこで生きる生物の形.結晶構造とそこで起こる物理現象.万華鏡の鏡室と生じる繰り返し模様.こられもみんな対称性の因果律が支配しています.
「もの」や「こと」の対称性とは,変換をほどこしても,「もの」や「こと」が全体として変わらない性質のことで,
例えば,回転や鏡映で系全体が不変なら,その系には回転対称,鏡映対称があるといいます.
音楽や詩歌の形式や韻律.
絵画,壁紙模様,タイル張り模様,建物,などのデザイン.
.....,芸術を始め色々な分野で,対称性の考え方が役立ちます.