ドアや家具や壁に見られるイスラムの美しい模様を作製する技術は千年以上の歴史があります.イスラムのデザインの特徴は,対称性の高い星型がちりばめられていることです.
繰り返し模様全体を支配する対称性は,17種類の平面群のどれかであるはずだし,並進(周期性)と両立しうる回転対称は,2,3,4,6回軸に限られるはずです.しかし,イスラムの模様の中に散らばる星形は対称性が高いのです.高い対称性はもちろん模様全域に作用はできません.その星形の内部にだを作用域とする局所的なものです.
上図の模様を例にとると,8回対称の青い星型が,正方形格子の周期で配列していることがわかります.青い星型にある8回対称性は,青い星型内部と緑の周囲領域,草色の星形5角形の領域までは有効ですが,オレンジ色の8角形までは有効ではありません.
青い星の中心にある8回対称軸はオレンジ色8角形の付近では,4回対称軸に低下してしまいます.これは,周期的な平面では8回対称軸は存在できない(正8角形のタイルでは平面を張れない)から当然のことです.
ある点のまわりの対称性という言葉は注意が必要で,その点周囲の「局所的」対称性を指す場合もありますが,平面「全域」で有効な対称性を指すのが普通です.この例では,青い星型の対称性は8回対称ですが,この星の中心にある回転対称軸は4回対称軸です.
このパターンの単位胞は,オレンジ色の8角形の中心を結んでできる正方格子の1つの内部です.
■Girihタイル(装飾線が描かれたタイル)
イスラムの繰り返し模様の壁はGirihタイルという手法で作れます.
正方形と正8角形を組み合わせた平面のタイル張りの例を,下図(a)に示します.このテッセレーションは,シュレーフリの記法で(4,8,8)と記述されます[1つの頂点のまわりに,正4角形,正8角形,正8角形が集まっている状態].
(b)図は,正4角形および正8角形の内部に装飾線を描いたGirihタイルです.
平面をGirihタイルでタイル張りしておいて,タイルの縁の輪郭を消すと(c)図のパターンが得られます.
デザインを作れる以下のウエブサイトがありますのでお試しください.
https://girihdesigner.com/
■ここで,始めに掲載したイスラムの模様も,上の例と全く同じであることを確認してください.
始めに掲載した模様の正4角形タイルや正8角形タイルの形は,草色の星型の中心を結んでいくと明らかでしょう.正4角形や正8角形の内部の装飾線はどのようなものであるかもお確かめください.