新国立競技場のキールアーチ

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数学月間SGK通信 [2015.07.14] No.072
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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ここでは,新国立競技場のキールアーチの不都合な力学についてのみ論評します.
その莫大な予算と環境破壊が不評な新国立競技場問題では,
発注前に設計図面の確定があったか,合意形成に必要な情報公開があったのか,
何処の誰が決定責任者なのか,全く見えないプロセスが最大の問題点ではあります.
工期がないと言ってはなし崩しに進めて行くやり口には,もう散々です.
以下の為末氏のブログの意見は全くの正論だと思います.
http://tamesue.jp/20150710/
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キール(竜骨)とは,船の船首から船底を通って船尾に至る鉄骨の背骨のことです.
新国立競技場の設計(ザハ案)には,巨大なキールアーチが2本使われています.
1本500億円かかると言われています.http://togetter.com/li/841805
この構造の問題点は,以下で評論されています.
http://ameblo.jp/mori-arch-econo/entry-11873045351.html

アーチの形は, http://blogs.yahoo.co.jp/tanidr/16586546.html で述べたことがあります.
アーチの曲線は,上下ひっくり返すと懸垂曲線と同じ形です.
中心から曲線に沿って測った距離をs,その点の曲線の接線の傾きをθとすると,
tanθ/s=一定 の関係があることをそこで説明しました.
アーチの形は,曲線内部の全ての位置で圧縮応力でつりあっているのが特徴で,
大きな荷重を支えることができます.
しかし,あまりにも曲率の大きい平べったいアーチになるとポッキリ折れそうな気がしませんか.
圧縮応力よりもせん断応力の方が圧倒的に優勢になってしまいますからね.

アーチは最終的に,両側の接地点にすべての荷重がかかります.
370mのキールアーチ1本の重量は3万トンと言われていますので,
両端の各接地点はW=1.5万トンの重量に耐えねばなりません.
アーチの頂上の高さをどれくらいに抑えるかによりますが,
ザハ案のデザインのように低く抑えたい(大きな曲率にしたいなら)接地点の傾きθ0が小さくなりますから,
接地点での水平分力W・sinθ0は大きくなります(θ0=30°なら,1.3万トン).
アーチ橋の所で述べたように,アーチ橋の根元には大きな水平抗力が必要で,
両側が山に挟まれた峡谷などは,アーチ橋に適した立地条件です.しかし,
新国立競技場の場合は平地なので,アーチの根元の外側からガッチリ固定したい所ですが,
地下に地下鉄大江戸線があるのでできそうにありません.
そこでアーチ端の内側同志を鋼材で引っ張る(アーチを弓とすると弦のように引っ張る)ことにする.
この鋼材は両側から引っ張られますから,2.6万トン重ほどの大きな張力になります.
軟な鋼材では耐えられませんね.
ちなみに,コンクリートは圧縮には強いが引っ張りには弱い.
鉄筋コンクリートの鉄筋はコンクリートの引っ張り強度をカバーするために入れるのです.
アーチは圧縮力に強いコンクリートが使えますが,キールアーチでは使えません.
いろいろ補助手段を工夫するでしょうが,合理的な設計ではないので工夫のし甲斐がないでしょう.