笑い話と計算

こんなクイズを何処かで聞いたことがありませんか?
1人10ドルのホテルに3人が止まり,30ドル支払いました.ホテルフロントが5ドル値引きしてくれ,女中を介して返金してきましたが,途中で女中が2ドル抜いたので,3人に渡ったのは1ドルづつです.結局,それぞれ9ドルづつ支払ことになり,全員でホテルに27ドル,女中が2ドル持っています.残りの1ドルはどこに消えたのでしょうか?
ややっこしくて変な気分ですが,お判りでしょう.27ドルと2ドルを足す意味は何でしょうか?

このような計算の笑い話は,落語のツボ算にも出てきます.買ったツボを返品するときに,支払った金額と返品するツボの値段を足してしまうのです.
数学の方程式を作るときに,左辺に足すか右辺に足すかよく意味を考えて式を作らないと,このようなとんでもないことになります.

落語の時そばでは,そば代金の16文を数える間に,8のときに時間(八つ)を混ぜ込むことで,1つスキップし金額を1文ごまかします.与太郎が真似をするときは,時間が(四つ)で,逆戻りし損をしてしまいます.これは,お金と時の呼び名という単位が異なり足すことのできないものを足すトリックです.我々ももう少し複雑な問題ではありますが.方程式を立てるときに単位の異なるものを足してしまうような式を立ててしまうことがよくあります.笑い話ではすみません.

話のついでにもう一つ,落語に出てくる不正な計算について述べましょう.落語花見酒では,酒だるを担いで売りに行く2人の間で,お金をやりとりしているうちに,お酒が全部なくなってしまう話です.これは売上金の公金横領に当たるわけですが,お金はお金でも,公金と自分の金というカテゴリーの違うものの区別ができなかったために起きた笑い話です.

最初の例に戻ると,ホテル取り分は25ドル,女中取り分は2ドル,客支払い分は3x9=27ドルで何の不思議もありません.

■以上をブログに掲載した時に,読者の方から「三方一両損」の話が出ました.
江戸っ子の職人が3両入りの財布を拾って,落とし主に届けると,落とし主はいらないと意地を張る.どちらも江戸っ子らしくていいですね.
大岡越前守が,1両出して4両にし,2両づつ分けさせる名裁きをします.
拾ったまま届けず手元に置けば3両ある.届けてもらって受け取っておけば3両ある.
奉行も関わらなければ1両出さずに済む.しかし,結局3人とも1両ずつ損をしたというのです.


■今回もう一つ,35頭のラクダと3人の兄弟(アラビア数学奇譚,3章より)を追加しましょう.

35頭のラクダを,父の遺言によれば,長男Aが1/2,次男Bが1/3,3男Cが1/9に分けろというものです.
かぞえびとペレズミがラクダをつれた友人と通りかかります.

ペレズミは言います「ここにある友人のラクダを上げますから36頭にしましょう」
36頭で計算すれば,すべて割り切れて,A,B,Cの3人のすべてが得をします.
なぜなら,
35/2<36/2=18
35/3<36/3=12
35/9<36/9=4

その結果,18+12+4=34頭ですみますから,1頭は友人に返却して,余った1頭は相続の問題を解決したペレズミがもらいます.