ジャーミイの模様の幾何学~美しいものには理由がある~(上)

■結晶は周期的な世界 ➡平面群

結晶は単位胞を積み上げてできたブロック細工のようなもので,周期的な内部構造です.図は水晶の例です.水晶の6角柱の方向から見た投影図とM.C.Escherのこの版画作品は同じ対称性(平面群p31m)です.

系の秩序(対称性)は,対称操作[系全体を動かしたとき,系の初期位置と全く重なるような操作]の集合で記述します.対称操作には,並進,対称心,鏡映,回転などがあり,これらの対称操作(群の元という)の組み合わせが作る“群”という代数系[集合の元間の演算が,群の定義(注)を満たす集合]で分類できます.壁紙を記述する平面群は17種類あり,ジャーミイの繰り返し模様もこれらのどれかに分類できます.

注)群の定義:

1.集合Gの任意の2つの元a,bの積a・bは集合Gに属す.→集合は閉じている
2.(a・b)・c=a・(b・c) →結合の法則
3.任意の要素aに対して,a・e=e・aとなるeが集合Gの中にある.→単位元eの存在
4.任意の要素aに対してx・a=a・x=eとなるxが集合Gの中にある.→逆元xの存在

■イスラームの模様の作り方 ➡テッセレーション

イスラーム建築に使われている美しい模様は,コンパスと定規だけで厳密に作図できますが,1200年までに,5種類のGirihタイル[縁に模様のある等辺多角形タイル]を用いて,パズルのように平面を埋めて美しい複雑なデザインを作る手法が確立しました.

この方法は平面を多角形タイルで分割するテッセレーションの手法と同じです.イランのDarb-i Imam寺院(1453)の壁には,その500年後にヨーロッパで発見されるPenroseタイリング[自分の中に自分と同じパターンが繰り込まれる]と同様なパターンがすでに見られることをPeter LuとPaul Steinhardtが報告しています.

(下)へ続く