地震(べき乗則)と被害(原発事故)

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数学月間SGK通信 [2015.07.07] No.071
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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この所,雨の日が続いています.皆様如何お過ごしでしょうか.
7月22日は数学月間懇話会を開催しま.どうぞお出かけください.

昨年(2014年7月22日)の数学月間懇話会の話題の一つに,
中西達夫さんの「スパゲッティを巡る旅」がありました.
これはスパゲッティを適当に砕くと,破片の長さ分布がどのようなものになるかという興味ある実験でした.
興味おありの方は,「数学文化」第21号をご覧ください.このとき観察される「べき乗則」は,
社会の関心事の一つである「地震」にも関係があります.

この地震のテーマは,メルマガNo.031('14/09/30発行)で,
複雑系(原発)の事故雪崩のテーマは,メルマガNo.006('14/05/15発行)で,
取り上げたことがあります.

地震のマグニチュードMは,エネルギーの対数です.マグニチュードを決めるのにリヒターが発案した当初の定義は
便宜的なものでしたが,現在ではもっと理屈に合ったモーメント・マグニチュードが採用されています.
(注)震度というのはその地の揺れ(加速度[ガル])の程度の段階です.
地震で解放されたエネルギーは,生じた断層面の面積×平均変位×地層の剛性の積です
(大雑把にいえば生じた断層の長さに比例します).
生じた断層の長さが長い方が解放されたエネルギーは大きいし,
地層の剛性が大きいほど大きな歪エネルギーが蓄えられます.
これらを踏まえ,起こりうる地震の最大エネルギーを見積もるとM9.5程度と考えられています
(1960年のチリ地震ではM9.5が観測されている).

地震のマグニチュードMと発生頻度(回/年)nの間にn=10^{a-bM}の関係があるのを,
グーテンベルクとリヒターが発見しました.a, bはその地域の地層の剛性などを表す定数で,
b≒1ですので,地震のマグニチュードが1つ大きくなるごとに,地震の回数は1/10に減ります.
ゆえに,これを「べき乗則」とも言います.

地震では多く発生するマグニチュードというものがありません(正規分布ではない).
大きな地震ほど少なくなりますが,M9あたりも起こり得る.そんな巨大な地震に見舞われたなら壊滅的です.
地震被害の低減対策は,被害のコスト(Mの関数)×発生確率(Mの関数)を小さく抑えることです.
従って,頻度は小さいけれど致命的な被害を惹起する巨大地震に対して,
被害が最小となるように備える必要があります.広域の汚染と何十年では済まない年月を要する
原発事故の被害コストは致命的です.原発の再稼働は止めましょう.

クリーン・ルームのチリのサイズ分布も「べき乗則」だと言われています.
もし正規分布のように頻度の高いサイズがあるなら,
そのサイズのチリの発生に特化した対策ができるのですが,「べき乗則」では特別な対策は困難です.
でもこの場合は,大きなサイズのチリが桁外れに大きな被害コストを与えると言う訳でもありません.

中西氏の実験したスパゲッティやクラッカーのほかに,分布関数を求める実験には色々あります.
凍ったジャガイモを投げて砕き,破片のサイズ分布を調べた人(南デンマーク大,1993年)などもいます.
ここでも「べき乗則」が確認されました.