宮崎興二(京大名誉教授)氏の講演より
4次元図形を人類が思いつくのは何時に始まったであろうか.紀元前5世紀のプラトンの「国家」には,洞窟の中で影しか見せないで子供を育てると,2次元しか認識できない人間になる話があると言う.最近の米国情報のみ一辺倒の報道メディアに浸かった日本を筆者は恐ろしいと思う.我々は3次元のなかの2次元を知る.2次元しか知らない者にとって失われた次元の復元は困難な問題である.17世紀に至り,デカルトの直交座標が発見され,4次元の数学的表現が可能になる.18世紀には,カントは4次元哲学の創始者,ガウス,ロバチェフスキイ,ボヤイが非ユークリッド幾何学を作る.19世紀には,メビウス,シュレーフリらが,4次元正多胞体,星型正多胞体を得ている.2千年を超える4次元図形への係わりを背景に,19-20世紀の芸術表現に4次元が現れる.筆者はピカソのキュウビズムなどの理解ができなかったのだが,宮崎興二氏の講演を聴いているうちに,これらの絵画が,4次元のかなり正確な2次元投影を部分構造にした表現であることに気づいた.コンピュータで作図をしなくても天才芸術下家は4次元が見えていたと思える.4次元が投影された種々の2次元断面を重ね合わせて4次元の表現がなされている.アンブロワーズの肖像は正8面体を面とした24胞体になっているとのことだ.
4次元の影響は色々な分野に現れる.「4次元の家」というSF小説を筆者は読んだことがあるが,20世紀には,新しい建築には4次元を取り入れるべしという動きがあったそうだ.我々が4次元を見るとしても,我々の住む3次元に投影されたものとして見るので,4次元の理解はなかなか困難である.日本で,4次元に言及した最初は1888年の菊池大麓で「ディメンジョン」を用い,藤沢利喜太郎は「4次元」,寺田寅彦は「4元」,宮沢賢治は「第4次延長(春と修羅,1922年)」,「第4次元(農民芸術概論,1926年)」を用いたとのことである.
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注1)以下のnoteの拙文もお読みいただけると参考になります.
https://note.com/sgk2005/n/n2045b4d3c4b0
https://note.com/sgk2005/n/n373a46cb8ecd
注2)宮沢賢治の4次元についての補足:
●銀河鉄道の夜(大正11年ー昭和6年)
これは三次空間の方からお持ちになったのですか
不完全な幻想第四次の銀河鉄道
●春と修羅(大正13年1月20日)
すべてこれらの命題は
心象や時間それ自身の性質として
第四次延長のなかで主張されます
●農民芸術概論(大正15年)
おお朋だちよ いっしょに正しい力を併せ
われらのすべての田園とわれわのすべての生活を
一つの巨きな第四次元の芸術に創りあげようでないか
注3)
アインシュタイン来日,(大正11年11月17日)
トシの死(大正11年11月27日)