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数学月間SGK通信 [2023.02.28] No.463
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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YouTube動画で色々な発明開発の動画があり,製作過程の面白さに惹かれてつい見てしまいますが,そのほとんどが時間の無駄です。
永久機関もあれば,まわりくどく原理がなんだかなぁとがっかりするものです。このようなものには次の2つのタイプがあります:
①投稿者自身が,意図的にトリックがある(詐欺,マジックの部類)ことを自覚している。
②投稿者自身が発明と信じていて,改良を進めればものになると思ってい
る。
①は詐欺の部類です。これはアイディアが面白ければ,受け狙いと割り切て,マジックのように楽しめばよいのです。しかし,かなりの人が騙されるようです(見る人の知識不足が原因です)。
ここで,私が気になるのは②の場合です。
視聴者のコメントを見ると大部分(9割)は肯定的で賞賛さえしています。その一方,正しい批判的コメントや親切なアドバイスも少数(1割程度)だがあるのは救いです(他人が一所懸命にやっていることへの否定や批判は言い難いし,そのようなコメントへの返信を見ると,発明者当人は聞く耳を持たないようです)。
当人は真摯に取り組んでいるとしても,このような動画は,多くの人を発明者と同じ泥沼に引き込むし,無駄な投資をさせたりするでしょう。
このようなことが起こる原因は,発明者の物理のその分野の知識不足にあります。発明品の不思議に見える動作原理は,生半可な知識の混沌とした状態の利用です。よく利用される現象の例は,ファラディやマックスウェルをはじめとする多くの科学者により既に解明された電磁誘導;コイルの周りで磁場が変化すればコイルに電流が生じ,電流が変化すれば磁場が変化するという現象です。この現象は,広大な応用分野をもち,モーター,電子レンジ,リレー,トランス,回路まで含めればほとんどの電子デバイスを作り出しました。ワイヤレス給電などもこの現象の利用です。抵抗に電流が流れれば加熱されるのは、既知の別の現象です。
「配管のそばで磁石をモーターで回転させて,配管に誘導電流を発生させ加熱する」という暖房装置のYouTube 動画があります。見世物として面白いと思う多数の視聴者がいます。これが石油の節約だと信じている人もいます。私はモーターを回転する電力で抵抗過熱をした方がよほど良いと思います。
開発を続けエネルギー変換効率の改良を進めれば,シンプルな現存装置に帰着してしまうことが見えています。
原子炉をボイラーの熱源代わりにする原子力発電もこの部類に入ります。100万kWの原発を1日稼働すると約3.7kgのウラン235が核分裂し,引き取り手のないおびただしい放射性核種が生じるというのに。