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群を積に分解しその生成群を調べたり,逆に2つの群の積で大きな群を生成したりするときに,群の直積$${H\times A}$$や半直積$${H\rtimes A}$$が役に立つ(ここに,群$${H}$$は群$${G}$$の正規部分群, 群$${A}$$は部分群:直積は部分群$${A}$$も正規部分群である特殊な場合に成立する).
直積$${H\times A}$$は,$${h_{i}\in H, a_{j}\in A}$$とし,ペア $${\{h_{i}a_{j}\} }$$を元として構成される群だが,任意の元$${h_{i}a_{j}, h_{k}a_{l } }$$がいつも可換とは限らないので,一般には,積則は半直積になる.
2つの群(例えば,結晶構造とそれを舞台に発現する特性の対称性)の関係を研究するときにもこの方法は応用される.
●ピエール・キュリーの原理(1894)
対称性$${G_{p_{i } } }$$の現象が起こるのは,対称性$$G_{p_{i } }$$(または,その部分群)の舞台で可能である.
これは,「原因はすべて結果に反映されるべきである」という因果律である.$${G_{p_{i } }\supseteq G_{\text{cryst } }=\cap{G_{p_{i } } } }$$
結晶とX線回折強度像の対称性の関係は,ピエール・キュリーの原理の一部であり,非正規の群の拡大問題として解決されるべきである.
●前回(3)概略したが,特性次元を幾何学次元空間に付け加えた空間(色付き空間)へ群を拡大しするとき,外部半直積が登場する.さらに一般化を進めるためにリース積が必要になる.2つの非正規部分群による非正規の拡大である場合は,これは非常に困難な課題である.
群の同型定理を基礎とする拡大理論と結晶学の関係は,数学と応用現場が互いに影響しあってともに発展してきた良い事例である.
■ 半直積
群$${H, A}$$および群準同型$${f: A \mapsto \textrm{Aut} H}$$($${H}$$を自分の上で変換する)が与えられたとする($${a_{j} \in A}$$の$${H}$$への作用$${f}$$を$${f_{a_{j } } }$$と表す).
このとき直積集合$${H \times A}$$に,積則
$${(h_{i}a_{j}) \cdot (h_{k}a_{l}):=(h_{i}f_{a_{j } }(h_{k})a_{j}a_{l})}$$ を適用すると$${H \times A}$$は群をなす.
(1)任意の元$${a_{j}h_{k } }$$は,一般には可換でない$${a_{j}h_{k}\ne h_{k}a_{j } }$$のだが,$${H}$$が正規部分群であれば,適当な$${f_{a_{j } }(h_{k}) \in H}$$があり,$${a_{j}h_{k}= f_{a_{j } }(h_{k})a_{j } }$$と書ける.
この群を$${H}$$の$${A}$$による半直積といい,$${H \rtimes A}$$と表す.群$${H}$$も群$${A}$$が群$${G}$$の部分群ならば,$${H \rtimes A}$$は内部半直積という.
(2)もし,$${H}$$の元と$${A}$$の元が可換(群$${H}$$も$${A}$$も正規部分群の場合)であれば,任意の$${a_{j}h_{k } }$$は可換であり,直積の積則$${(h_{i}a_{j})(h_{k}a_{l}=(h_{i}h_{k}a_{j}a_{l})}$$のままで群をなす.直積は,$${f_{a_{j } } }$$を恒等写像$${f_{1 } }$$とした半直積の特殊な場合と見做せる.
$${h_{i}, h_{k}\in H}$$, $${a_{j}, a_{l}\in A}$$
$${h_{i}a_{j}\cdot h_{k}a_{l}=h_{i}(a_{j}h_{k}a_{j}^{-1})a_{j}a_{l} =h_{i}h_{k}^{a_{j } }a_{j}a_{l } }$$
$${h_{k}^{a_{j } }\in H}$$
■ 応用例:結晶群$${4mm}$$は,群$${4}$$と群$${m}$$の半直積.
$${G=4mm=\{1, 4, 4^2, 4^3, m_x, m_y, m_a, m_b\} }$$
$${G\vartriangleright H=4=\{1, 4, 4^2, 4^3\} }$$, $${G>A=m=\{1,m\} }$$ (ここで用いた>は部分群の意)
$${1\cdot \{1, 4, 4^2, 4^3\}=4}$$, $${m\cdot \{1, 4, 4^2, 4^3\}=\{1, 4^3, 4^2, 4\}=4}$$ 群$${A=\{1, m\} }$$は群$${4}$$の自己同型写像
$${4mm=4\rtimes m (=H\rtimes A)}$$
■ 外部半直積
2つの群 $${H}$$ と $${A}$$(与えられた群の部分群である必要はない)と群準同型 $${f: A \mapsto \textrm{Aut} H}$$が与えられると,内部半直積の場合と同様に,$${f}$$ に関する $${H}$$ と $${A}$$ の外部半直積と呼ばれる新しい群 $${H⋊A}$$ を構成することができる.これにより,幾何学空間と異なる次元を付与した空間へ群の拡張ができる.
■ リース積(wreath product)
群論のリース積は,半直積の積則をさらに拡張したものである.
$${G}$$と$${A}$$をそれぞれ群,$${X}$$を左$${G}$$集合($${G}$$の要素$${g}$$が$${X}$$の左から作用する)とする.この状況下で,群準同型$${f: X \mapsto \textrm{Aut}A}$$を考える.この写像の集合$${ f\in W }$$を用い,半直積$${W\rtimes G}$$が定義でき,これを$${A}$$の$${G}$$による非制限リース積という.$${G}$$は$${W}$$に群同型である.$${(g\cdot f)(x)=f(g^{-1}\cdot x)}$$
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●リース積は理解しにくいが,龍孫江の数学日誌に良い解説があります.
https://note.com/ron1827/n/nd464de95a750
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■リース積の応用
リース積では$${g\in G}$$も$${f\in W}$$も左$${G}$$集合$${X}$$に作用する写像(演算子)と理解する.
非正規の拡大の例に,Van derWaerden -Bruckhardtの群$${G_{WB}^{(p) } }$$がある.この群は,3項記号$${G/H'/H}$$で定義されるが,ここで,古典群$${G \leftrightarrow G_{WB}^{(p) } }$$;指数$${p}$$の部分群$${H' \subset G}$$は,性質(色)$${i}$$を保存する部分群$${H_{i}^{(p_{1})} \subset G_{WB}^{(p) } }$$に同型対応する;正規部分群$${H=G \cap G_{WB}^{(p) } }$$(古典部分群$${H \vartriangleleft G^{(p) } }$$を作っている)は,$${H'}$$のすべての共役部分群の共通部分によって決定される$${H= \cap gH'g^{-1}, g \in G}$$.
色群$${G_{WB}^{(p)}=g_{1}H_{i}^{(p_{1})} \cup g_{2}^{(p)}H_{i}^{(p_{1})} \cup \ldots \cup g_{p}^{(p)}H_{i}^{(p_{1}) } }$$は,部分群$${H_{i}^{(p_{1}) } }$$を,剰余類の代表系$${G^{(p)^{* } }=\{ g_{1},g_{2}^{(p)}, \ldots ,g_{p}^{(p)} \} }$$で拡大したものと表現されるが,一般には群を成さない.$${G_{WB}^{(p) } }$$で作用する性質$${p}$$個の置換は,$${g_{i } }$$を左から乗じることによる左剰余類$${g_{k}H'}$$の置換である:
$$g_{i}^{(p)}=g_{i}p_{i}=p_{i}g_{i}$$, $$p_{i}=\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } }
g_{1}H' & g_{2}H' & \cdots & g_{p}H' \\[0mm]
g_{i}g_{1}H' & g_{i}g_{2}H' & \cdots & g_{i}g_{p}H'
\end{array} \right) $$
$${P}$$-対称のZamorzaev群は,対応する図形の一般点がそれぞれ1色に塗られる場合には,色群のすべての型を包含する.このようなすべての群$${G^{(p) } }$$をその生成群$${G}$$から,次の手段により導くことができる:
1)$${H=G^{(p)} \cap G=G^{ \ast } }$$は$${G^{(p) } }$$の古典的部分群,$${Q=G^{(p)} \cap P}$$は色置換の部分群として,$${G/H \leftrightarrow P/Q}$$となるようなそれぞれの中の正規部分群$${H}$$と$${Q}$$を探す.
2) 同型$${G/H \leftrightarrow P/Q}$$の確立と同型対応する剰余類$${gH \leftrightarrow \varepsilon Q}$$の対積を作る.
3) 得られた積を集める:$${G^{(p)}= \cup gH \cdot \varepsilon Q}$$
この説明枠外に,Wittke-Garrido色対称群と複素関数のEwald-Bienenstock対称群が存在する.これらの場合には,色変化の規則は,変換だけでなく,図形中の点の取り方にも依存する,すなわち,対応する色変換は局所的となる.
●References
色群の一般化には;Niggli, Wondratschek, Wittke, Van der Waerden, Burckhardt, Pawley, Mackay, Zamorzaev, Koptsikなどが係わっている.
Shubnikov and Koptsik; Symmetry in science and art (1974)
V.A.Koptsik; Generalized symmetry in crystal physics; Comput. Math. Applic. Vol.16, No.5-8, pp.407-424, 1988
A.M.Zamorzaev; Generalized antisymmetry; Comput. Math. Applic. Vol.16, No.5-8, pp.555-562, 1988
Alexandre Lungu; Zamorzaev's P-symmetry and its further generalizations; 2002; Moldova State University