━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数学月間SGK通信 [2023.02.21] No.462
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■数学月間とは (たに・かつひこ/NPO数学月間の会)
米国のMAM(数学月間)は,上院の共同決議「1986年4月14~20日を数学週間とする」に基づくレーガン大統領宣言で1986年にスタートした.レーガン宣言は格調高く,「およそ5千年前に始まった数学的叡智は進歩を遂げ,今日の社会を支えている」と述べ,すべてのアメリカ人に対し,数学と数学的教育の重要性を実証する活動への参加を要請している.米国が国家的行事のMAMを決断した背景には,国民の数学力の低下で,産業力も低下するとの焦りがあったといわれる(小林昭七「顔をなくした数学者」).1950年代の日本は,Dr. Demingの品質管理手法を,TQCやQCサークルに発展させ,生産性向上を達成していた.1980年NBC放送はIf Japan Can, Why Can’t We?と呼びかけ,Dr. Demingのセミナーが米国で展開されたが,さらにこれを数学全般の啓蒙MAMへと発展させたのは米国の叡智であった(竹内淳実).バークレーの地域数学サークルなどの学校外活動も効果を上げている(小林昭七).米国MAMは,数学系学協会が参加するJPBM(Joint Policy Board for Maths)が,毎年,社会を反映した数学テーマを選定し,4月に種々の数学イベントが展開される.国民からの事後評価も受ける.時局の数学を,種々のレベルで学習できるウエブ・サイトが充実し,そこにエッセイや論文が集積され,数学を基礎から最先端まで,学生が独習できる優れたガイドになる.日本の数学月間(7/22-8/22)は,片瀬豊(表紙写真)の日本数学協会への提案(2005年)でスタートした.片瀬豊は,日本版JPBMが国家的行事として数学月間を展開すべきだと考えていた.「数学月間」活動は,数学同好者の内部にとどまらず,数学が係わるあらゆる分野を横断し,一般市民に働きかけ,数学(論理)が社会を支えている事例を踏まえ,数学への共感を獲得することを目的としている.
■孤高な数学では共感を得られない
理系でも数学と結びつきの薄い分野に生徒が流れる傾向がある.数学まつりを実施しても,教材の基礎にある数学へ言及することは少ない.「数学によってのみ外界(森羅万象の法則の起源)が認識できる(デカルト,ホッブス)」のだが,数学はこのように避けられ嫌われている.数学への共感が得られない原因を考えるに,数学の孤高姿勢にある.完成した数学体系を学べというのではなく,相手の現場に立ち入り数学論理を見出し適用して見せることで共感が得られる.教育数学においても各学科分野にふさわしい数学を提供するのが良い.マーフィーの法則で,「言葉が通じなければそれは数学」と揶揄的に定義されるようではいけない.完成された数学体系は美しいが,それぞれに,その数学概念が生まれた源泉があり,その過程を見せること,および,その数学の適用現場を見せることが共感に繋がる.数学者でない一般社会人の共感を得るには,地に足がついているという意味から,数学は物理学の一部であると考えた方が良い.(クーラン&ヒルベルト「数理物理学の方法」,イアン・スチュアート「無限をつかむ」).