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2015/05/30 数学月間とボランティア

投稿日時: 2022/12/20 システム管理者

2015/05/30
数学月間とボランティア

■毎年,7月22日--8月22日は数学月間です.この期間は,数学の基礎定数 π(22/7=3.142..) とe(22/8=2.7..)に因みます.数学月間を日本数学協会が定めてから今年で十年になります.数学月間の会(SGK)は,この期間に,数学への共感を高める活動が各地で盛んになるよう応援してきました.SGKはボランティア・ベースの活動なので,地味であまり知られていないかもしれません.SGKは会費も規約もありませんので,ぜひ皆様のご参加ご協力をお願いいたします.例えば,それぞれの地元で「楽しい数学のイベント」をやりませんか.「SGK通信に寄稿」などは如何ですか.あるいは,我々が手本にしている数学月間の先進国のwebにある色々な「エッセイの翻訳」に協力いただけませんか.さまざまなご提案やご意見,情報など何でもSGK世話人sgktani@gmail.comにご連絡ください.
(注)海外の数学月間情報は,(米国)Maths Awareness Month, (英国)Millennium Maths Project, (仏国)数学週間 などのwebサイトにあります.

■日本のこの種のボランティア活動精神はまだまだです.オープンソースのプログラムなどの開発でも,意識の高い個人レベルの活動に頼っています.皆の役に立つことでも,自分は手を出さずに他人がやるのを待つという傾向があります.公益的でなく利己的です.数学月間の活動は,ボランティアですので,自分の本を売るためとか自己宣伝のためではお断りしています.予算もありません.私たちは,毎年,月間初日の7月22日に数学月間懇話会を開催して,この10年間に30件ほどの講演を企画しました.これら無償の啓蒙活動は,自発的にご協力頂けたものです. 
「数学は国力を高める」とか「数学の仕事は年収が高い」とか,その功利的な面を強調することが,外国や日本でも流行っています.これも数学への注目を集める切り口の一つなので,あえて反対はしませんが,本当はこのような話題は私は大嫌いです.
文科省は,2006年5月のシンポジウム「礎の学問:数学」で,数学研究と諸科学・産業技術との連携の重要性を打ち出しました.その狙いは,先端数学研究と産業界の連携拠点づくりにあります.このような大きな予算措置もあり成果の期待できるプロジェクトは活性化しています.これは純粋な数学ではないと感じる数学者も多いことでしょう.確かに弊害もありますが,一方,数学者側が,数学への社会の課題を理解し,その課題の数学的命題化に力を貸すことも大切です.複雑な現実から数学の命題を抽出することが一番難しい所で,抽象化された数学研究だけでなく,数学者はこの段階にも積極的に関与すべきだと思います.ニュートンが力学研究に必要な数学的手段「微積分」を開発したり,オイラーが変分法を開発したり,かつては,数学者と科学者は一体でありました.ピタゴラスの時代から,数学の源泉は自然や工学にあったのです.数学者は抽象化された数学研究の細道に入り込むばかりではなく,このような未分化の源泉にも立ち戻るべきだと思います.連携研究の成果が,国力を高めるとか産業を強化するとかに直結することはあり得るわけですが,その精神が本末転倒にならぬよう注意が必要です.
連携研究のレベルは,既存の数学を適用するだけ,あるいはコンピュータによる計算という枠内のもの(数学が適用できるニーズ)も多いですが,異分野(社会,医学,諸科学,産業な ど)の課題には,新しい数学が生れる可能性(シーズ)も大いにあります.

■我々SGKは,「社会を支える数学」という視点から,数学の啓蒙・普及を狙っているのですが,一般への啓蒙活動は,成果が不明確なため放置される傾向にあります.自分の成果を追い求め研究をしている学者は,そのようなボランティアに手を出す余裕はありません.また,数学者は数学自体をその周辺(数学が応用される諸科学・工学,社会)から見る必要性を感じていません.
しかし,無償で成果も可視化できない数学月間活動のような,地道な一般への啓蒙活動が,数学への共感者を増加させるのに必要です.数学月間は受験の数学とも異なります.当然,数学月間は数学者のためのものではありません.私たちSGKは,数学を使う科学や工学者の視点や,一般市民の視点から数学を眺めます.専門家でない一般市民や生徒の皆さん,数学のその面白さを共に味わおうではありませんか.一般の数学愛好者の方々,意見交換にご参加ください.