2014/08/26
026_ケプラー予想
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数学月間SGK通信 [2014.08.26] No.026
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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この所,正多面体による空間の充填などを見てきました.
今回は,最密充填構造の話です.以下の本が参考になります:
ケプラー予想,ジョージ・G・スピーロ(青木薫訳)新潮社
◆ケプラー予想とは:
「3次元空間で最も高密度に同じ大きさの球を充填した状態は,
1つの球のまわりを12個の球が取り囲む状態で,
その空間充填率は74.04%である」というものです.
これは,結晶学では最密充填構造として常識になっていることがらです.
立方最密充填(=立方面心格子),6方最密充填,および,両者の混合のポリタイプは
無数にありすべて同じ充填率74.04%です.この起源は1883年,結晶学者ウィリアム・バーロウが6方および立方の最密充填の2つの最密充填構造をネイチャーに掲載したことにあります.
バーロウは結晶空間群の数え上げ(フェドロフ,シェンフリーズもそれぞれ独立に数え上げた)でも有名です.
注:スピーロの著書p.23でバーロウの図に言及し,立方最密充填は6方最密充填とまったく同じ配置なのだ!」と言っているのは,数学と結晶学との見解の相違.
111面(切断)が同一であるのは当たり前で,その積層様式に結晶学的違いがあるのだ.
◆ケプラー予想は多くの人が挑戦しましたが,どうやってもこれより稠密な充填構造はつくれません.これより充填密度の高い構造はないという証明はとても難しいのです.このケプラー予想をヒルベルトは,1900年8月,第2回国際数学者会議の講演で,未解決の23の問題(ケプラー予想は第18問題)として提起しました.
周期的に規則正しく並べる(結晶)という条件では,ケプラー予想は証明できるのですが,不規則な並べ方まで含めてこれが最密であるということの証明はとても困難です.正4面体でも正8面体でも正12面体でも正20面体でも,単一では空間の充填ができません.前号で正4面体と正8面体を2:1で混ぜると周期的に空間が充填できることを示しましたが,それは面心立方の最密充填構造にほかなりません.さらに高密度な様式はないのだろうか?
例えば,立方最密充填では1つの球の周りに6個の球が囲み,上の段,下の段に3個づつ球が接します.上下の3角形が点対称であるような配置が立方最密充填,上下の3角形が周りを囲む6角形を鏡として鏡映対称であるような配置が6方最密充填です.
このような1つの球のまわりに12個の球が配置する構造と言っても,次のようなものがあります.
中心球の赤道面の上側から5個の球,下側から5個の球が接し,上下の正5角形が点対称に配置し,さらに,中心球の上下に球が1個づつ配置するのも12個配置です.これは正20面体配置と呼ばれます.しかし,この配置は局所的には充填密度が高いが,正20面体だけでは空間の充填ができません.
どうも数学的にエレガントな証明は無理なようです.
◆ケプラー予想の証明は,トマス・ヘールズ(ミシガン大学)によってコンピュータを用いたしらみつぶし法で完成したということです.ケプラー予想(1611年「六角形の雪について」という友人向けの小冊子にあるという)から400年近く経過した1998年のことです.
ヘールズはドロネーの四面体分割を基礎に,シンプレックス法で計算されました.
評価関数を導入して,密度の低い配置は減点,密度の高い配置は加点を繰り返すものです.300ページもあるヘールズの論文は,トート(Toth)ら審査員12人が4年かかってチェックしましたが最後まで詰められず99%正しいと報告されました.
そこで,2003年にヘールズ自身が証明支援ツール(HOL Light,Isabelle など)を使いチェックを始めやっと証明できたと言います.コンピュータを用いる証明は「4色問題」の時にもありました.