★層の空間群.2次元平面と層の違い

投稿日時: 2021/11/22 システム管理者

2次元平面には,裏表があると思いますか/ないと思いますか?
2次元とは厚み方向の次元のない世界ですから,その世界には,表面や裏面の区別はありません.しいて言えば,片面だけ(1面だけ)の平面です.この2次元平面を私たちの住む3次元世界に置いたとすると,表側面と裏側面の区別が生じます.

周期的な2次元平面とは,面内に2つの独立な並進ベクトル$$a,b$$があり,この2つのベクトルで挟まれる平行4辺形を単位胞(単位タイル)として,平面を敷き詰めた構造です.周期的な2次元平面の対称性(平面群)は17種類ありました.いわゆる17種類の壁紙模様のことです.2次元平面(壁紙模様)は片面のみの世界で考えたものです.

我々の3次元の世界の中で,2次元の平面を見たときに,表面と裏面の区別が生じますが,このように表裏のある2次元平面を「層」と呼びます.

層というのは,3次元の世界に置かれた2次元平面ですので,層には表面と裏面があります.

層(表側と裏側のある面)の2次元周期的模様の対称性(空間群)は,80種類あります.もちろん,80種類のうちに片側のみの面の対称群17種類は含まれます.

片側のみの面の対称群17種類から,どのようにして80種類の空間群が導けるのでしょうか.

第1の方法は,層の内部(層に含まれるような)に,対称心,鏡映面(あるいは,映進面),2回軸(あるいは,2回らせん軸),などの,位数2の対称操作を導入し,片面の世界を他の面の世界に写像することです.つまり,
片面のみの壁紙模様の17種類の平面群と,層の内部に置いた位数2の対称群との直積で「層の空間群」を生成する方法です.

第2の方法は,2次元(片面)平面群の生成元を,表面と裏面との間の変換が起こるものに置き換える方法です:回軸対称軸を位数2のらせん軸に,あるいは鏡映面を映進面に置き換えることです.

こうして,17種類の平面群から,80種類の層の空間群を導くことができます.

層の(空間群)対称性をすべて導くことは,30年代にドイツの科学者;Hermann,Weber,Alexanderらによって完了しています.
層に対する空間群など,何に応用できるのかと思う方もおられることでしょう.層の対称性(空間群)は,表面や界面の記述に用いることができます.結晶学では液晶構造,ドメイン界面,双晶,エピタキシャル接合の研究に,物理化学では単分子層や薄膜の研究に,生物学では膜構造やその他の生体組織の研究に応用できます.また,建築芸術においても, 透かし彫りの格子構造,覆い,フェンス,看板などのデザインに応用できます.

それにもましてこの概念が重要なのは,層に対する空間群の内部構造を理解することが,群の拡大理論に直結し,反対称群などの概念の構築の基礎になることです.