例として,対称性$$\mit\Phi=R\overline{3}c$$の$$\alpha-Fe_{2}O_{3}$$型の磁気結晶を考察しよう.図222a,c,とe(カラー挿入頁)に,結晶化学的胞と一致する磁気的胞を示す.Fe原子は点群$$3$$の席対称$$12c$$,6方座標で,$$ (0,0,0),(0,0,\displaystyle \frac{1}{2}),(\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{2}{3}),(\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{1}{6}),(\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{1}{3}),(\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{5}{6}),(0,0, \pm z) $$を占める.
対称性$$2$$の$$18e$$の位置を占める酸素O原子は,図に描かれていない.図222b,d,fに,磁気配置に対応するShubnikovあるいはBelov群の投影の,$$z=\displaystyle \frac{1}{12}$$と$$z=\displaystyle \frac{1}{6}$$のものが示されている.図222cの配置は,$$z=\displaystyle \frac{1}{12}$$と異なる群($$R\overline{3}^{(3)-}c$$と$$R_{1'}\overline{3}^{(3)-}c$$)により表現される.他の配置に対し,群は$$z=\displaystyle \frac{1}{6}$$と$$z=\displaystyle \frac{1}{12}$$に対するものと同一である.図222の(c),(e)での構造の一致に対し,弱い(ferromagnetic)相$$R\overline{3}^{(3)-}c=R\overline{3}^{(3)}c \cap $$(図222f)3色群を得る.この3色群は,$$z=\displaystyle \frac{1}{6}$$で温度範囲-20°<t<675°Cで,ヘマタイト(hematite)で実際に実現される.Belov群とそれらの投影の一般化は,原理的にnoncollinear umbrellaとspiral型を含む結晶のすべての可能な磁気構造を記述する.
これらの群は,電子的構造理論や分子振動理論の分野で広く応用されている.分子結合を担っている波動関数の線形結合(いわゆる分子軌道)は,分子の対称群既約表現により変換される.分子振動の座標,すなわち,分子内の平衡位置点からの原子変位をあらわすベクトルで作られるある種の線形結合は,同一の表現で変換される.
結晶群の既約表現や反対称群や色付き対称群の既約表現には直接的な関係があるので,これらの主張は,分子軌道と分子の振動座標が,対応するシュブニコフ群とベロフ群の対称性を持っていることと等価である.
電子の放射遷移の選択則は,赤外やラマンスペクトル構造と同様に,分子の対称群の表現の組み合わせ,すなわち,対応する反対称群や色対称群に関連している.
電子構造論,振動論,結晶の構造解析などでは,さらに対称性の手法が有効である.
もし,結晶に並進対称性がなければ,1cm^3あたり10^23個もの粒子を含む原子系の物性を解析することは極めて困難である.
しかし,結晶構造は,通常は少数の粒子からなる単位胞のモチーフが3次元周期的に繰り返されできており,このモチーフ(単位胞)は,結晶構造における「分子」のような役割を担っている.
したがって,結晶の物性を研究するには,単位胞内の粒子の集合体の挙動を調べればよく,全体の性質は部分の性質から判断できる.
固体の量子論では,Blochの定理やそれに相当する定理によって,全体の性質が並進周期をもつ部分の性質に反映される.
ここでは,結晶の電子構造を記述する波動関数や,同じく,原子の基準振動座標が,空間群の規約表現により変換される.すなわち,これらの関数の系が,反対称やや色付き空間群により記述される.
同じことが,電子密度の変換特性 とパターソン関数(構造解析の基本)で言及できる.これは,回折パターンを結晶構造に関係付ける.