掲示板

平面群

koptsik-ch12-4

例として,対称性$$\mit\Phi=R\overline{3}c$$の$$\alpha-Fe_{2}O_{3}$$型の磁気結晶を考察しよう.図222a,c,とe(カラー挿入頁)に,結晶化学的胞と一致する磁気的胞を示す.Fe原子は点群$$3$$の席対称$$12c$$,6方座標で,$$ (0,0,0),(0,0,\displaystyle \frac{1}{2}),(\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{2}{3}),(\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{1}{6}),(\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{1}{3}),(\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{5}{6}),(0,0, \pm z) $$を占める.
対称性$$2$$の$$18e$$の位置を占める酸素O原子は,図に描かれていない.図222b,d,fに,磁気配置に対応するShubnikovあるいはBelov群の投影の,$$z=\displaystyle \frac{1}{12}$$と$$z=\displaystyle \frac{1}{6}$$のものが示されている.図222cの配置は,$$z=\displaystyle \frac{1}{12}$$と異なる群($$R\overline{3}^{(3)-}c$$と$$R_{1'}\overline{3}^{(3)-}c$$)により表現される.他の配置に対し,群は$$z=\displaystyle \frac{1}{6}$$と$$z=\displaystyle \frac{1}{12}$$に対するものと同一である.図222(c),(e)での構造の一致に対し,弱い(ferromagnetic)相$$R\overline{3}^{(3)-}c=R\overline{3}^{(3)}c \cap $$(図222f)3色群を得る.この3色群は,$$z=\displaystyle \frac{1}{6}$$で温度範囲-20°<t<675°Cで,ヘマタイト(hematite)で実際に実現される.Belov群とそれらの投影の一般化は,原理的にnoncollinear umbrellaとspiral型を含む結晶のすべての可能な磁気構造を記述する.

これらの群は,電子的構造理論や分子振動理論の分野で広く応用されている.分子結合を担っている波動関数の線形結合(いわゆる分子軌道)は,分子の対称群既約表現により変換される.分子振動の座標,すなわち,分子内の平衡位置点からの原子変位をあらわすベクトルで作られるある種の線形結合は,同一の表現で変換される. 

結晶群の既約表現や反対称群や色付き対称群の既約表現には直接的な関係があるので,これらの主張は,分子軌道と分子の振動座標が,対応するシュブニコフ群とベロフ群の対称性を持っていることと等価である.

 電子の放射遷移の選択則は,赤外やラマンスペクトル構造と同様に,分子の対称群の表現の組み合わせ,すなわち,対応する反対称群や色対称群に関連している.
電子構造論,振動論,結晶の構造解析などでは,さらに対称性の手法が有効である.
もし,結晶に並進対称性がなければ,1cm^3あたり10^23個もの粒子を含む原子系の物性を解析することは極めて困難である.
しかし,結晶構造は,通常は少数の粒子からなる単位胞のモチーフが3次元周期的に繰り返されできており,このモチーフ(単位胞)は,結晶構造における「分子」のような役割を担っている.
したがって,結晶の物性を研究するには,単位胞内の粒子の集合体の挙動を調べればよく,全体の性質は部分の性質から判断できる.
固体の量子論では,Blochの定理やそれに相当する定理によって,全体の性質が並進周期をもつ部分の性質に反映される.
ここでは,結晶の電子構造を記述する波動関数や,同じく,原子の基準振動座標が,空間群の規約表現により変換される.すなわち,これらの関数の系が,反対称やや色付き空間群により記述される.
同じことが,電子密度の変換特性 とパターソン関数(構造解析の基本)で言及できる.これは,回折パターンを結晶構造に関係付ける.

koptsik-ch12-5

 

複合系(составные системы; composite systems)

対称群の重ね合わせの原理
変化の法則と対称性の保存

 完全系(целостные системы; integral systems)を構成する自然物を扱うときに,まず第一に気づくのは,その構造の複雑な複合性である.どのような物質対象も,部分構造の相互貫入,特定の配向や従属によって特徴付けられる.
例えば,現代物理学の最大関心事である「素粒子」の内部構造もそうである.原子(かつては「不可分」と考えられていた)は,原子核(核子で構成)と殻に分布した電子からなる.
原子やイオンは,分子,結晶,生体高分子の構造などの次の構造レベルを形成する.惑星系,恒星系,銀河系,超銀河系に至るまで,多種多様な巨視的物体の構造は複合的である.原子・分子型から始まり,完全な生物体や生物社会に至るまで,生物系には複雑な複合性が見られる.社会システムはそれ自体が複合的な構造を持っている.

   完全系組織の複合性(сложный композиционный; cpmplex composite)は,系ごとに分離し,それらの構造的なサブレベルを分離するという方法論を刺激するものである.これは,系そのものの科学的研究にも,他系との関係や部分系(subsystems)間の関係を明らかにするためにも不可欠である.
統合するために分割せよ(Разделить для того, чтобы объединить; Divide to unite),これが科学研究のモットーである. 本質的でない関係を切り離し,注目する関係に係わる分離された系の性質のみに興味を集中する.科学は,現実系の単純化したモデルを構築し,これをその後の研究の対象とするのである.
これが,外部とエネルギーや物質の交換可能な開放系に対して,閉鎖系や孤立系という科学的抽象化をする原点である.系の詳細な分類や,その一般的な性質の提示は省き[例えば,Structure and Forms of Matter (1967) and Problems of Methodology in System Study (1970)参照],この章の残る部分で,本書の中心課題である系の対称性と,構造,特性との関係について研究を続けることにする. 

   我々はすでに多くの幾何学的な例により,構造は対応する自己同型変換群(групп автоморфных преобразований; automorphic transformations)の不変量であることを立証している.物質系の幾何学的構造の対称性は(正しい定義に従えば),当該構造がもつ性質や関係の最小限の対称性でもある.系のすべての部分構造に,その部分構造の中で要素を互いに変換する独自の自己同型群を結びつけることができる. 
系を部分構造レベルに分離する妥当性は,その部分構造の要素に同値関係*を成立させる変換群が存在するかどうかで確認できる.ここでは,複合材料系の特性モデル化としての複合幾何図形を考察することで,部分構造の対称群と系全体の対称群との関係を検討する. 

   いくつかの例に目を向けよう.図8は,五芒星と正方形の重ね合わせによる複合図形である.構成する2つの図形は,運動や相似変換によって互いに変換することができないため,幾何学的に異なる.正方形[単面平面(на односторонней плоскости; on a one-sided plane)上にある]は,$$G_{1}=4mm$$の対称性を持ち,五芒星は$$G_{2}=5$$の対称性を持っている.形成された複合図形全体は,この2つの群の唯一の共通部分群である$$G=1$$の対称性を持っている.2つの群の与えられた配置における,それらの共通な部分群を求める操作を交叉(пересечением; intersection)といい,記号$$ \cap$$と書く :$$G=G_{1} \cap G_{2}$$,例えば,$$1=4mm \cap 5$$で標記される.同値関係で結ばれていない部分構造の対称性は,全体としての系の対称性より低くはないことがわかる:$$G_{i} \supset G (i=1, 2)$$.
非等価な部分から複合図形を形成する過程は,部分の対称性に比べて全体の対称性が低下し系の非対称化(диссимметризацией; dissymmetrization)を伴う.一方,等価な部品から複合系を形成する場合には,逆の過程,対称化(симметризации; symmetrization)が起こる.
図5bは,正3角形で構成された図形(正6角形)である.正3角形の固有対称性は$$G_{i}=3m$$であり,系全体の対称性は$$G=6mm$$である.系の対称性$$G$$は,この場合,群$$G_{i}$$の交叉$$( \cap _{i=1}^{6}G_{i}=G_{1} \cap G_{2} \cap \cdots \cap G_{6})$$にならない:  $$\cap _{1}^{6}3m=1$$.
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
* 定義によれば, $$a, b, c$$の要素に対する二項関係($$ \sim $$で表す)は, $$a \sim a$$(反射性),$$a \sim b$$なら$$b \sim a$$(対称性),$$a \sim b$$と$$b \sim c$$なら$$a \sim c$$(推移性)の三つの性質を満足すれば, 同値関係である. 例題では, 図形の計量的性質を保存する同値関係に興味がある. 
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
一方,群の合併(объединением; union)($$ \cup _{1}^{6}G_{i}=G_{1} \cup G_{2} \cup \cdots \cup G_{6}$$,これには,対称要素の与えられた空間配置をもつ6つの群のすべての変換を含む)とも一致するわけでもない.
集合$$ \cup _{1}^{6}3m$$は,6つの3角形の各中心に生じた3回軸,6角形の中心を通らない6枚の鏡映面$$m$$,中心を通る3つの鏡映面$$m$$よりなり,この集合は群をなさない.図形の中心を通る2枚の鏡映面は群$$G_{i}^{*}=3m \subset 6mm=G$$を生成する.$$G_{i}^{*}$$は$$G_{i}$$と同型で,6角形の中心を3角形の中心に一致させる平行移動演算$$S$$で,$$G_{i}^{*}$$に還元される:$$G_{i}^{*}=SG_{i}S^{-1}$$

群$$G_{i}$$の合併も交叉も,考察中の複合系(составной системы; composite system)の対称性を記述できない.その理由は,全体の中で3角形間に成り立つすべての同値関係が含まれていないためである.
一般に,配向平面上の任意の2つの図形は,合同で等しいか鏡像で等しい場合,すなわち,2次元連続体$$p_{00} \infty mm$$の運動群の変換$$S$$作用で互いに一致するとき,計量的に等価であるとされる.ある固定図形に,すべての変換$$S \in p_{00} \infty mm$$を適用すると,幾何学用語でいう「体」を形成する等価図形の連続体が得られる.等価図形の有限系は,この包含群(охватывающей группы; embracing group)または基本群(фундаментальной ;  fundamental group)$$p_{00} \infty mm$$の部分群の対称性を持つことになる. 
   部分群$$G_{i}$$が,1つの固定された基本群あるいは包含群$$G_{\textrm{emb } }$$に属するという事実は,空でない交叉$$ \cap G_{i} \neq \phi $$( $$\phi$$ は空集合)の存在を保証し,複合図形の対称性の概念を特定するに十分である.例えば,正6角形(図5b)で,交互の3角形を黒(共通の辺を持たない3つの三角形を黒)く塗り,黒-白図形を得る.その反対称群$$\left( 6'mm' \right) $$は拡張された包含群$$p_{00} \infty mm1'$$に属する.
   考察中の例を一般化して,定義により,部分を決定している対称群$$G_{i}$$の交叉$$ \cap G_{i}$$は,固定した包含群$$G_{\textrm{emb } } \supset G_{i}$$のレベルで,部分が図形の正則系( правильной системы; regular system)を形成していなければ,異種混成(гетерогенного ; heterogeneous)幾何学対象の対称群$$G$$である.
もし,一様(гомогенного; homogeneous)な幾何学対象の部分が図形の正則系を形成するなら,その対称群$$G$$は部分群の拡大(расширение; extension)$$ \cap G_{i} \subset G$$である.ただし,剰余類(添え字$$S$$は対称化(symmetrization)の意)の代表系$$G^{S}=\left\{ g_{1},g_{2}, \cdots ,g_{j} \right\} $$は,同一の包含群$$G_{\textrm{emb } } \supset G_{i}$$に属し,あるいは,何らかの同型な,例えば,色付きなどの一般化包含群$$G_{\textrm{emb } }I^{(p)}$$に属する$$G^{(p)S}=\left\{ g_{1},g_{2}^{(p)}, \cdots ,g_{j}^{(p)} \right\} $$:
$$G=\left( \cap G_{i} \right) g_{1} \cup \left( \cap G_{i} \right) g_{2} \cup \cdots \cup \left( \cap G_{i} \right) g_{j}= \cap G_{i} \odot G^{S}$$
[ここで,$$ \odot $$は対称化あるいは非対称化演算]
明らかに,もし,$$G_{i}$$,$$G^{S} \subset G_{\textrm{emb } }$$ならば,群$$G \subset G_{\textrm{emb } }$$;もし,$$G^{S}$$を$$G^{(p)S}$$で置き換えるなら,$$G$$は一般化(色付き)群になる.
   対称化演算(симметризации; symmetrization),すなわち,部分群$$H= \cap G_{i}$$から群$$G$$への移行は,部分集合の合併$$G=H \odot G^{S}= \cap G_{i}$$と解釈できる.ここで,$$ M=G\backslash H=Hg_{2} \cup \cdots \cup Hg_{j} $$は,$$G(g_{1}=e,g_{2}, \cdots ,g_{j} \in G^{S})$$に対する$$H$$の補集合(теоретико-множественное дополнение; set-theoretic complement )である. 
その逆演算の非対称化(диссимметризации; dissymmetrization)は,$$ H=G \odot G^{D}=H \cap M=G\backslash M $$で,拡大$$G$$から補集合$$M$$を除いた(сводится к отбрасыванию из расширения G дополнения М)ものである.対称化あるいは非対称化の演算子$$G^{S}, G^{D}$$を用いると,特定の群$$G_{i}$$を固定することで,交叉$$ \cap G_{i} \subset G_{i}$$を$$\cap G_{i}=G_{i} \odot G^{D*}$$と書ける.すなわち,$$G= \cap G_{i} \odot G^{S}$$は,$$ G=G_{i}\odot G^{D*} \odot G^{S} $$となる.他方,$$G=G_{i} \odot G^{S*} \odot G^{D**}$$,ただし,$$G_{i} \odot G^{S*}=G_{\textrm{emb } }$$,$$G=G_{\textrm{emb } } \odot G^{D**}$$である.その結果,
$$G=G_{i} \odot G^{D*} \odot G^{S}$$ および,$$G=G_{i} \odot G^{S*} \odot G^{D**}$$.ここで,対称化$$G^{S}, G^{S**}$$は,同型な色付き演算に置き換えられ,探していた全体と部分の対称関係(соотношения связи между группами симметрии целого и части)の記号的表現を得る.
これらは,図形の正則系を構成する部分よりなる複合幾何物体で成立するだけでなく,構成点が超幾何的性質(色)を付与されている一般化された幾何(物質)対象でも成立する.この結論は,群拡大の定理の結果に直接基づいている.複合物理系へ拡大し,対称群の重ね合わせの一般原理(複合系に対する対称性原理)となる.これは,一般に,群の交叉や合併にはならない.このことは,等式$$G=G_{i} \odot G^{D*} \odot G^{S}$$を,次の型に書き直すなら明瞭である.
$$ G= \cap G_{i} \cup M,  M=G\backslash\cap G_{i} \neq \phi $$         (11)
異種混成系の特別な場合は次のようになる. 
$$G= \cap G_{i} , M= \phi , G^{S}=e \in G$$       (12)
式(12)より,次のことがいえる.異種混成系物質(heterogeneous)では,部分の対称性は,全体の対称性より低くはならない:$$G_{i} \supset G$$.
部分と全体という概念に具体的な意味を持たせると,この原理は様々な言い換えができる.例えば論理の公理では,[ある理論の仮説が群Gに対して不変であるならば,結論についてもそう言える(G. Birkhoff, 1950)]
あるいは,物理的な因果律では,[ある原因がある結果を生むとき,原因の対称要素は結果に観測されるべきである(P. キューリー, 1894)].
もちろん,これらの新しい主張の正当性は,我々の幾何学的証明とは独立して確立される必要がある.

同時に,物質的に均質な系に対しては,式(11)から,系$$G$$の部分系の対称性について,式(11)から他の可能性が導ける.
$$G_{i} \supseteq G ,  G_{i} \subset G$$, あるいは,$$G_{i}\not \supset G ,  G_{i} \not\subset G$$
ここで,もし必要なら,$$G_{i}$$を同型な古典あるいは色付き群に置き換え:$$G_{i}^{*}=SG_{i}S^{-1}, S \in G_{\textrm{emb } }$$,あるいは,$$G_{\textrm{emb } }I^{(p)}$$(ここで,$$S$$は相似変換で,対称化演算で用いた上付添字$$S$$と混同しないように).このような場合に対応する因果律 は,後述する確率統計的な性格を持つようになる. 

koptsik-ch12-6

全体の対称性と部分の対称性の一般的関係を定式化するにあたり,全体や部分の概念を精査することは有用である.これらの概念の定義は 論理の公理:「全体はいかなる部分よりも小さくはない」により与えられる.点集合の場合の定義に適用すると,自分自身が要素である無限集合が存在することがわかる.そのような集合のべき乗は,その部分のべき乗と同じになる. 
ユークリッド空間における閉じた有限点集合を図形と呼ぶことにする.
図形Fの任意の2点をMとNとし,それらの間の距離を$$\rho \left( M,N \right) $$とする.関数$$\rho \left( M,N \right) $$の連続性から考えて,我々は常に図の2点A,Bで,すべてのM,Nに対し,$$\rho (A,B) \ge \rho (M,N)$$となるような2点を見出せる.このような[最小の]2点間の距離$$d=\rho \left( A,B \right) $$を集合Fの直径と呼ぶ.
図形をより小さな部分に分割することによって(Boltyanskii, Gokhberg, 1971参照),集合Fをいくつかの部分集合の合併union(被覆covering)の形に表現することができる.
$$F=H_{1} \cup H_{2} \cup \cdots \cup H_{m}$$
部分集合の直径はFの直径より等しいか小さい(図形$$H_{i}$$は互いに重ならない場合もある).
対称性の概念が図形Fで定義されれば,その部分でも定義されることは明らかであり,対応する群$$G$$と$$G_{i}$$の関係の問題は,対称群の重ね合わせの原理を一般化することで解決できるかもしれない.
読者は,この節と次節で多くの方程式を提示されても動揺する必用はない.それは,ほとんどの場合,基本関係(11)を特殊化したもので,次のような形に書き換えることができ,
$$G=G_{i} \cdot G^{D*} \cdot G^{S}=G_{i} \cdot G^{S*} \cdot G^{D**}$$                                  (11*)
(11)から生じる結果は(345頁も参照):$$G_{i} \supseteq G, G_{i} \subset G$$あるいは,$$G_{i} \not\supset \not\subset G$$である.
後者の場合,$$G_{i}$$から$$G$$への移行は,これらの群の共通部分群の対称化$$G_{i} \cap G=G \cdot G^{D}$$,または,これらの共通上位の包含群$$G_{\textrm{emb } } \supseteq G_{i} \cup G$$の非対称化のいずれかによって行われる可能性がある. 
群$$G$$と$$G_{i}$$の基本的な関係を変えることなく,幾何学空間から幾何的物理学(物質的)空間へ移行しても,完全系の各部分間の相互作用の問題は残る. 
さらに,ある(有限または無限)数の部分から構成される形成物の組織的完全性という新たな困難も出現する.これらのことは,幾何学レベルでは実現できた関係の一部しか,幾何物理学レベルでは実現できないことを意味する.

例えば,部分と全体との関係は,原因と結果との関係より広く,部分は全体と因果関係がない場合があることを忘れてはならない(Свечников; Svechnikov, 1971).
他方,完全系の考察中の固定状態を,許容された状態集合の一部と考えると,その状態の対称性は,重ね合わせの原理から生じる関係によって,その系の定常対称群に結ばれることがわかる.この場合,一般化原理は,例えば量子力学の特徴である状態の因果関係の媒介形式を記述するものであり,古典的決定論の原理の枠内には入らない.

式(11)と式(12),あるいはそれに先立つ式は,合わせて対称群の重ね合わせの原理を表している.式(11)は,系の対称化(拡大)または非対称化(縮小)の過程を,いくつかの対称化因子(集合$$M$$の要素)の包含または排除に結びつける.逆に,式(12)では,系の対称化は,いくつかの群$$G_{i}$$を交叉$$ \cap G_{j}$$から除外した結果であり,非対称化は,系にいくつかの新しい非等価の部分構造を系に含めた結果である:この場合,それらに対応する群$$G_{i}$$が系の非対称化因子として機能する.

群$$G$$と$$G_{i}$$の変換の作用下で,系全体とそれを構成する部分構造が保存されるということは,繰り返し指摘したように,その構造と部分構造に結びついたすべての性質と関係が同時に保存されるということである.したがって,対称群の重ね合わせの原理は,純粋幾何学の世界だけでなく,物質系や図形の世界でも成立つ.

群$$G$$と群$$G_{i}$$(または表現の空間で作用するそれらと同型の色群)は,構造または部分構造の要素の幾何学的配置の対称性だけでなく,対応する物理量の変換特性,例えば,物質系の物理特性を記述する一様なテンソル場,および物理場相互や,物質との相互作用で生じる現象も記述する. 

幾何学的な非対称性の原理(12)を物理現象に拡張したのは,ピエール・キュリー(1894)に属するものである.それは,彼の有名な言葉「非対称性が現象を生む」であり,彼自身の言葉を借りれば,次のように理解する必要がある."現象は,特性の対称性($$G_{i}$$),または,特性の対称性の部分群の1つの対称性($$G \subseteq G_{i}$$)を有する媒体舞台で存在し得る.つまり,ある現象にはある対称性の要素が共存していてもかまわないが,対称性のある要素を欠くが必要である.この非対称性が現象を生み出している.原理(12)の定式は,


幾何学的な非対称性の原理(12)を物理現象に拡張したのは,ピエール・キュリー(1894)によるものである.つまり,「ある現象は,その現象が持つ特徴的な対称性($$G_{i}$$),あるいはその特徴的な対称性の部分群($$G\subseteq G_{i}$$)のいずれかの対称性を持つ媒体の中に存在することがある」と理解される.つまり,ある現象にはある対称性が共存していてもよいのだが,その必要はない.しかし,ある対称性の要素が存在しないことは必要である.これが現象を作る非対称性である」 原理 (12) の定式化は次のようになる

 $$G_{\textrm{phenomena }i} \supseteq G_{\textrm{medium } }= \cap G_{\textrm{phenomena }i}$$ または,
$$G_{\textrm{property }i} \supseteq G_{\textrm{object } }= \cap G_{\textrm{property }i}$$                (13)
これを,Newman-Minnigerode-Curie(NMC)原理と呼ぶ.キュリーの定式化は,先人の結果の基礎の上にあり,19世紀の物理学の蓄積した事実を一般化したものである.ここで,この原理の形成の歴史を物語る他の定式を年代順に挙げてみよう.

В. Vivell (1830): 「光学的対称性は幾何学的対称性に正確に対応する」.F. Neumann (1850 - 1885): 「物理的性質に関して,ある材料はその結晶形と同じ種類の対称性を持っている」.W. Minnigerode (1884): 「結晶の対称群は,この結晶で起こりうるすべての物理現象の対称性の部分群である」.ここからキュリーの定式化に移ると,「結晶」という言葉を「媒体(舞台)」という言葉に置き換えればよいことになる.
キュリー自身は,もちろん先人たちも,残念ながら,20世紀の物理学に豊かに存在する構造研究の急速な開花を目撃することはできなかった.したがって,キュリー自身は,「生み出される作用は,原因よりも対称的であるかもしれない」という独創的な推測をしているが,観測された群$$G$$と$$G_{i}$$群間の関係のすべての形態,特に対称化効果(11)を予見することはできなかったのである.
ピエール・キュリーによる複合系の対称性の見つけ方(「自然界の異なるいくつかの現象が重なり合って一つの系を形成するとき,それらの非対称性が積み重なる.その結果,各現象に共通する対称性の要素だけが残る」),現在明らかになったように,異質な系に対してのみ有効である.キュリーの発言の多くが曖昧で矛盾していることから,研究者は繰り返しこれらの発言を批判し,因果関係の原則や十分根拠の原則に基づく他の発言に置き換えてきた(Birkhoff, 1950, 1954; Shubnikov, 1956; Koptsik, 1957-1971; Spassky and Krindatch, 1968, 1971).
このテーマに関する多くの文献があるにもかかわらず,NMCの原理を物理学に応用することは困難であった.例えば,流体力学において,原因の見かけ上の対称性が,それによって引き起こされる作用の対称性を伴わない場合,いわゆる対称性のパラドックスがある(Birkhoff, 1954参照).これは,一般に系の対称性が構成要素の対称群の交叉に還元されないため,式(12),(13)のNMC原理は適用範囲が限定されるためである.また,物理実験の結果決定された系の対称群は,幾何学的な群$$G$$と間違われることがあるが,実際は色群$$G^{(p)}$$である.
例えば,X線回折により2色群$$P4/mm'm'$$を持つ強磁性立方体結晶は,$$\mit\Phi =Pm3m \supset P4/mmm \longleftrightarrow P4/mm'm'=$$; 部分群,$$\mit\Phi ^{*}=\mit\Phi \cup P4/m \subset \mit\Phi $$
のみが,ここでは純粋に幾何学的な変換の群となる.このような場合,(12), (13)では幾何学的な部分群$$G^{*} \subset G^{(p)}$$のみを系の幾何学的対称性としてとらえる必要がある.もう一つの難点は,対称条件はその抽象的な性質上,現象の実現に必要なだけで,十分ではないことだ.系の対称性から予測される現象が観測されなかったり,不安定になったりすることがある.
強調すべきは,対称性の条件を形式的に分析しても,実際の物理現象を注意深く研究し,物理系に対称化または非対称化の要因として実際に作用する物質的要素を見つける必要性から,研究者は解放されないということである.

(12)に加えて対称化原理(11)を用いることで,先に述べた困難の1つが解消される.幾何学系の対称化の例は,本書の初版で紹介した(Shubnikov, 1961も参照).

対称群の重ね合わせの原理の分析を終えるにあたって,孤立系内の構造的なサブレベル間の相互作用と,系同士の相互作用の問題を忘れてはならない.物質系とそのサブシステムは,思考でしか分離できない.現実には,構造や対称性は,孤立した状態系あるいはそのサブレベルとは異なり相互作用がある.

 

 

koptsik-ch12-7

式(12)において,$$G_{i}$$, $$G$$ を,(仮想の)孤立状態にある与えられた物体に対して定義される定常状態の対称性群を表すのに使うことにする.また,相互作用のある状態での同じ対象物の群を$$G_{i}'$$,$$G'$$とする.

固定レベルにおいて,異質な部分系$$G_{i}$$の堆積そのもの(これが,交差$$G=\cap G_{i}$$の対称性を決定する;$$G$$は完全で外部作用から孤立)は,それらの相互作用の十分な原因になるが,この相互作用は,別の構造レベルにおいて要素間の新たな同値関係の確立につながらないとすれば,相互作用の無い対象の交叉$$\cap G_{i}$$の対称群は,相互作用のある交叉$$\cap G’_{i}$$の対称群と同じでなければならない.元の状態が対称的であれば,なぜそれが変化しなければならないのか?系の対称化因子(仮説)は登場しないのだろうか?

$$G'= \cap G_{i}'= \cap G_{i}=G$$                 (14)
相互作用が,要素間の新しい同値関係に導くなら,(11)に従い相互作用系の対称化に出会う:
$$G'= \cap G_{i}' \cup M' \supseteq \cap G_{i} \cup M=G , M' \neq \phi , M= \phi $$                 (15)
関係式(15)は,初期状態(11)の場合にも書くことができ,その場合,$$M \neq \phi $$(対称化因子の集合は空ではない). 
式(12)の初期状態$$ \cap G_{i}$$,または,式(11)の$$ \cap G_{i} \cup M$$が,それ自体で,相互作用の十分な基礎となるのであれば,相互作用によって孤立した系が非対称化されることはないだろう.
(12)において非対称化が起こるためには,非対称化因子が含まれていなければならない(新しい群$$G_{i}$$がその役割を果たす).
しかし,これらの因子が,群の初期の交叉により,孤立系に出現することがあらかじめ決まっているのであれば,なぜこれらの因子が交叉$$ \cap G_{i}$$を縮小するのか?系の非対称化のために (11)では,ある種の相互関係の要素を,集合Mから,排除しなければならない.もし,この合併 が対称的であり,相互作用を決定していたのであれば,合併$$ \cap G_{i} \cup M$$, から対称化因子が抜け落ちるのは何故か?

   これまでの議論は,$$\textbf{十分な理由の原理}$$*に基づき,$$ \textbf{定常状態の保存則の定式化} $$(以下に示す)を導き出した.相互作用の無い状態の対称性は完全に保存される(14).初期状態の対称性は, (増加することはあっても)減少することはない(15).
この観点から,この議論の根底にある前提条件を満たしていれば,$$\textbf{孤立した系の定常状態での対称性は,相互作用下では増大するのみ}$$である.非対称化が起こるためには,$$\textbf{系の孤立を破壊するような系の拡張が必要である}$$ : 固定された系の外部にある物質的舞台のみが,その定常状態の対称性を減少させることができる.

   対称性の保存の法則は,平衡状態の熱動力学や相転移の理論において重要な役割を演じる.次節では,これらの分野におけるいくつかの例について考えてみよう.