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2次元アイソゴンとアイソヘドラ.寄せ木

2次元アイソゴンとアイソヘドラ.寄せ木

アイソゴンisogonとは,どの頂点にも同じ数の辺が集まっている多面体に与えられた名前です.各頂点に集まる辺の様子が合同であるか鏡映対称であるような典型的なアイソゴンに興味を絞ります.典型的なアイソゴンの例には,すべての正多面体が含まれます.一般的なアイソゴンのすべての頂点は球面に乗り,球の半径が無限に大きくなると,球の表面は平面になります.半径が無限大の球に対応する典型的なアイソゴンを,平面アイソゴンと呼びます.
一般に,平面アイソゴンは,隙間なく平面を埋めるいくつかのタイプの多角形(=ポリゴン,平面アイソゴンの面)で構成されます.平面アイソゴンの各頂点は,幾何学的に等価(合同または鏡像)な様相でアイソゴンの辺(ポリゴンの側面)が集まっています.平面アイソゴンを構築してみましょう.ネットワークパターンの17の対称クラスのうちの1つを選び,図149を使用して,選択した対称クラスに対応する対称要素の配置を紙に書き留めます.次に, 任意の点を選び,その点に存在する対称要素の対称変換を作用させます.
結果として得られた同価点の系が,アイソゴンの構築の基礎になります.系の各点の最近接点を線分で結びます.検討中の点を除いて直線の交差が発生しない限り,このプロセスを続行します.等しい最短距離が複数ある場合,これらが交差しない限り,対応するすべてを線分で結びますが,交差する直線は描画しません.図174〜176の番号1〜35は,種々の対称クラスに対してこのようにして構築された平面アイソゴンです.
例として,アイソゴン2(図174)がどのように構築されたかを考えてみましょう.同価点の単純系を構築するには,対称クラス(a / a):m・6(図149)を選びます.6回対称軸と3回対称軸の間の対称面上に点Aを選定します[訳者注)Aは特殊点です].この系の点Aの同価点のすべてが,3回軸と6回軸の回転により生じます.点Aを隣接する2つの点と結びます.同様の作業を系のすべての点で行います.このようにして,図に示されているすべての6角形を完成します.
次に,点Aと同価点のうちで2番目に近接する点を結びます.その結果,図中のすべての3角形が表示されます.これで,平面アイソゴンが構築されました.点Aを長方形の反対側の角にある次に近い点に結合した場合,2番目の対角線も描画する必要があり,単純なシステムにならない新しい点,つまりの交点が発生します.そのような点は仮定により許されません.アイソゴンの構築が完了したら,対称面と対称軸を表すすべての補助点と線を消します.
平面アイソゴンを構築する際に,異なる対称クラスから始めても,結果が同じになる場合があります.たとえば,図174の平面アイソゴン6は,元の点を正しく選択すれば,対称クラス(a / a)・m・6またはクラス(a / a):m・3から構築できます(図149を参照).したがって,次の明らかな矛盾が発生します.平面アイソゴンは,その構造が基にした対称性と同じではない可能性があります.このケースは対称性の異なる5つの立方体の場合について以前に詳細に検討したときに起きた現象と同じです(図65).アイソゴンを構築する際に,図形の物理的同価性を無視したため,明らかな矛盾が生じます.
これらの矛盾は,着色や陰影などの方法で図を処理することにより,完全に排除することができます.
この構築されたアイソゴンを「完全」と呼びます.これは,「不完全」なアイソゴンとの対比ですが,不完全なアイソゴンは,残りの線分が平面を凸多角形に分割するように特定の線分を削除して,完全なアイソゴンから導けます.図176ー178の番号36〜60は,この方法で取得された不完全な平面アイソゴンの例です.たとえば,図176の不完全な平面アイソゴン36は,平行四辺形の対角線を削除することにより,完全なアイソゴン8(図174)から得られます.アイソゴン40(図177)は,アイソゴン19(図175)から,菱形の短い対角線を削除して得られます.


典型的な平面アイソゴンから典型的な平面アイソヘドラisohedraを作るのは簡単です.平面アイソヘドラは,隙間なく平面を埋める同価なポリゴンで構成される平面無限の図形です.これらのポリゴンは,必ずしも平行ポリゴン(平行な辺を持つポリゴン)の一部である必要はないという点で,すでに検討されている平面ポリゴンとは異なります.平面アイソヘドラを構築するために,平面アイソゴンに対し,それらのエッジの中点を通る直線を描きます.直線は相互に交差した後,平面アイソヘドラの凸多角形を形成します. 例として,考えてみましょう. 図179.ここで細い線は,すでに遭遇したタイプのアイソゴンを示しています(図175の19). 太い線は細い線の中点を通過し,細い線の辺に垂直であり,等辺6角形の系を形成します.

 

 

 

 

 

 

万華鏡でネットワークパターン

万華鏡でネットワークパターン
 
[訳者注]ここでは万華鏡で作るネットワークパターンについて述べているが,平面のタイル張りの対称性(5つのブラベー格子)が念頭にある.万華鏡は鏡の組み合わせで作られる対称性なので,そのうちの4つのブラベ格子が実現しうる.これらは格子の対称性そのもの(その格子で許される最も高い対称性)で完面像と呼ばれる.

完面像クラスの4つのパターンだけが万華鏡で作ることができる.これらは紙の折り畳みとカットにより作れるパターンと同一である.長方形の辺に沿って鏡の表面が内部に向くようなプリズム配置からは,(b:a):2・m型のパターン(図170a)が生れる.元の物体はプリズムの内部に置かれる.直角2等辺3角形の周りに置かれた鏡配置により(a:a):4・m型のパターン(図170b)が生まれる.正3角形の辺に沿って配置された鏡の万華鏡は(a/a):m・3型のパターン(図170c)を生む.そして,鋭角が30°, 60°の直角3角形の辺に沿って3枚の鏡を配置した万華鏡は(a/a):m・6型のパターン(図170d)を生む.実際には,これらの万華鏡は,帯状の鏡を繋ぎ合わせて作る.プリズムの底を艶消しガラス,もしくは,外部あるいは内部に艶消しガラスの物体を置く.初めの2つの場合は,万華鏡を水平に持ち,光源に直接向ける.最後の場合は,垂直に持ち下から照明する.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[訳者注]ここで実現される万華鏡は,4枚鏡の長方形の他に,平面を隙間なく埋め尽くす3角形の3種類(以下の説明では整数解の3角形)に関するものだけで,分数解の3角形は考慮していないので,以下の説明を補足したい:

 

 

 

 

 

美しい幾何学,p109,p118より

★平行多辺形とプラニゴン

平行多辺形とプラニゴン 

寄せ木細工での利用

一つの図形を用いて,平面を隙間も重なることもなく埋め尽くす課題にしばしば出会います.図形を互いに平行配置し平面を埋め尽すことができ,その図形がポリゴン[凸多角形]であれば,その図形は平行多辺形parallelogonと呼ばれます.任意の平行4辺形と,対辺が平行で等しい6辺形だけが,平行多辺形になれ,この他に平行多辺形はありません.こうして,次の8つの典型的な平行多辺形が作れます(図171).内訳は,4つの平行多辺形(正方形,長方形,菱形,傾いた平行4辺形)と,4つの平行6辺形(正6角形,対辺に垂直な方向に伸びた6辺形,対角を2等分する方向に伸びた6辺形,歪んだ6辺形)です.

 

 

 

 

 

 

 


平行多辺形からプラニゴンplanigon(すなわち,平面を隙間なく重ることもなく埋め尽くす形の平行多辺形で,平行移動だけでなく回転軸や対称面で反射した位置にも配列できる)を得るには,各平行多辺形を対称性に従い等価な部分に分割すれば十分です.例えば,正方形は8通りの方法で等価な部分に分割できます(図172,19-26).もし,正方形を非対称図形として扱えば,分割できず(19)のままであり,この場合は平行多辺形であると同時にプラニゴンでもあります.もし,正方形を対称性2・mにするなら,等価な部分への分割には2つの方法があります(20,21).2回回転対称性を持たせるなら2つの台形への分割になります(22).対称性4・mにする,正方形の4つの等価部分への分割なら2通り(23,25),および,8つの等価部分への1通りの分割(26)があり,4回回転対称性にするなら,4つの等価部分への分割は1通り(24)があります.すべての平行多辺形の等価部分への分割は,これと完全に同様な方法で行います.図172には全部で48通りの平行4辺形のプラニゴンへの分割結果が掲載されています.ただし,これらの分割された平行多辺形の48個のうちのいくつかは,平面を埋めるた結果が同じになります.例えば,平行多辺形19と23は,同じ単純正方格子になります.また,平行多辺形21,25,26は直角2等辺3角形の異なる寄せ木パターンを作ります.
平面をプラニゴンで埋める問題は,確かに,もっと一般的な問題の特殊なケースで,等価な図形で平面を埋める問題は早くから考察されてきました.この特殊なケースは,床や道を張り詰める寄せ木デザインなどで実用的な重要性があります.

 

 

[訳者注]ここで扱う平面の分割は,結晶(周期的内部構造)学の基礎になるもので周期的なものであります.ペンローズタイリングのような非周期の平面分割(充填)もあります.

 

正則点系

正則点系
点の多重度とその相対数の積の保存則

[訳者注)単位胞中に存在する原子の数によっては,対称性(多重度)によりその原子の存在できる場所が決まっつているという便利な性質が,構造解析のときに利用できる]

有限図形の点系(同価な点の系)に関して,対称(正則)の概念には,すでに出会っています.この概念を無限の平面図形に拡張するのは困難ではありません.何らかの無限の平面図形(下図173)が与えられたとしましょう.その中の任意の1点(図173の任意の●)を選び,選んだ点に同価なすべての点を見出しましょう.
[訳者注)同価な点というのは,対称操作で互いに変換できる点のことで,図173の場合には,実線が鏡映面,および,各鏡映面に沿った並進が定義されています]

その結果得たすべての点の集合は,同価点の1つの単純正則点系を作ります.これに,2番目,3番目,等々の同価点系(○,◎)を加えると,複雑,あるいは,複合点系を得ます.もし,単純点系の初めの点が対称面上や対称軸上や,対称中心になければ,得られた集合は一般点の同価点系(●)と呼ばれ,他の場合は,特殊点の同価点系(○,◎)と呼ばれます.
[訳者注)●だけ集めると一般点の系,〇だけ集めたものは鏡映面上の特殊点の系,◎だけ集めると鏡映面の3重点(あるいは,3回軸)上の特殊点の系]

無限パターンの各タイプ点系の点の数は無限ですが,単位胞の中の点の数は有限です.(これらは対称演算により互いに移り合う)

 

 

 

 

 

 

 

 

図173を調べると,◎の点1つに〇の点3つ,●の点6が対応し存在することがわかります.これを,●の多重度は1,○の多重度は2,◎の多重度は6であるといいます.黒点●の位置を徐々に対称面方向に動かすと,それが対称面上を通過するとき,両側から近づいた2つの黒点●は1つに合体します.もし,黒点●が3回転軸の位置に近づき,ちょうど軸上(に3つの対称面の交差点)を通過するときには,6つの黒点が1つに合体します.
したがって,各単位胞の中にある,さまざまなタイプの点の相対数$$n_{i}$$は,対応する多重度$$s_{i}$$の逆数に比例することになります.

$$n_{1}:n_{2}:n_{3}: \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot =\displaystyle \frac{1}{s_{1 } }:\displaystyle \frac{1}{s_{2 } }:\displaystyle \frac{1}{s_{3 } }: \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot $$
$$n:n_{1}:n_{2}: \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot =1:\displaystyle \frac{1}{s_{1 } }:\displaystyle \frac{1}{s_{2 } }: \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot ,$$ あるいは,$$n=n_{i} \cdot s_{i}$$

どんなパターンにも多重度s=1の点が存在するので,そのような点の相対数をnと記すと2番目の式のように書き換えられます.

言い換えると,特定の種類の点の相対数とその多重度の積は一定です. したがって,図173のパターンの例では,点の多重度と相対数の積は常に6に等しくなります. 黒点●の場合は1x 6,白点〇の場合は2 x 3,二重円◎の場合は6 x1です.
規則的な点の系(正則点系)を記述するのに,平面パターン全体を作る必要はありません. 対称要素の集合をその特定の領域(たとえば単位胞の内)で指定するだけで十分です. 対称要素の配置図が与えられれば,特定の位置に点を配置し,その対称要素を作用させて,与えられた対称クラスに対応する同価点の系を簡単に構築できます.

[訳者注)下図の2つは,対称要素の配置図(上図)に対して,一般点に非対称図形楔型を置いて得た点系(下図)の例です]

紙からネットワークパターンを切り出す

ネットワークパターンをカットするためには、矩形,正方形,正3角形,正6角形の紙シートを使います.
初めの紙の形が矩形なら,紙のサイドに沿って半分に折るを繰り返し,折り畳んだ状態で切り込みを入れます.すると,対称面と2回対称軸のあるパターンが得られます(図 165).[訳者注)この図形の対称性は2mmです.mは図形全域に有効な対称面ですが,この図形には局所的に有効な対称面があります.対称面は紙の折線に沿って生じるのですが,全域的な対称面と局所的な対称面を区別したいものです.]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


正方形の紙から始めて,サイドの線に沿ってだけではなく対角線に沿ってもこれを半分に折ることを繰り返すと,対称面と4回対称軸のあるパターンを切り出すことができます(図166).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に正3角形の紙から始めて,3角形の2等分線に沿って折ると,対称面と3回対称性のあるパターンを切り出せます.
正6角形から始めても同じ結果が得られます.正6角形の内部に正6角形と共通の頂点を持つ正3角形を内接させ,3角形の2等分線に沿って,あるいは内接された3角形の辺に平行な線に沿って折ります(図167).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正6角形のサイドに沿って2つ折りすると6回対称軸が得られます(図168).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これらの切断例は,(ホロヘドロン)完面像図形=そのネットワークパターンの対称性で許される最大の対称要素を与えます.
対称面のないパターンの切込み(あるいは一太刀切)は例外で,困難があります.このような場合には,重ねた紙からたくさんのロゼットをカットして,平面パターンや層の対称性の法則(次章を参照)に従って,異なる色の背景のボード上に,それらを貼り付けて作ります.
後者の場合は,紙の表裏にも注意を払わなければなりません.
図169に,このように切断した平面パターンの例を掲載しています.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[訳者解説]折線は対称面になります.対称面を赤線で示しました.どのように折って切ったか推定してください.

ここで対称面と言っているものには局所的に通用するもの(青色)と,全域的に通用するもの(赤色)とがあります.これらは区別しましょう.

 

 

 

 

 

モアレパターン発生の実験

今日はモアレの実験を行います.

まず,網目パターンを用意します.今回は,面心斜方格子[長方形格子の中心にも格子点のある複格子(2格子点胞)]を使います.この格子は,単純格子(1格子点胞)で解釈すれば,菱形格子に還元できます.この関係は下図を見るとわかるでしょう.

 

 

上図では,格子点に正3角形を配しました.配置した正3角形の対称要素と格子の対称要素を比較すると,共通な対称要素としては垂直方向の鏡映面しかありません.従って,パターン全体としての対称性は,垂直方向の鏡映対称を持つだけです.格子自体にあった高い対称性も,正3角形自体にあった高い対称性も互いに打ち消し合って残りませんでした.これを対称性の重ね合わせ原理と言います.

 

 

 

 

このようなパターンを基礎にして作った網目模様を以下に示します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この網目網を互いに2θ(小さい角度)で重畳したときに,生じる2次的網目パターン(モアレと呼ぶ)を調べましょう.

 

     (1)重畳角2θ(小)のとき        (2)重畳角2θ(大)のとき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      (3)重畳角180のとき         (4)重畳角180°+2θ(小)のとき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
(5)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論:いずれの場合も2次的なモアレ像に生じる格子のタイプは,初めの(1次の)格子のタイプと同じであることがわかる.しかし,2次的に生じるモアレ像中に正3角形の対称性がどのように反映されるかの鮮明な結果は得られなかった.

網目パターンの重ね合わせ2

2つの同一な網目パターンを種々の回転角度で重ねたときの干渉で,何が起こるか考察しよう.例として,面心の長方形(面心斜方格子)の頂点に円環を配した網目パターンの系(図110d)をとり上げる.

 

Fig.159

 

Fig.160
図159と160を見ると,角度2θが小さいうちは,二次的図形は(素図形の数が不十分なために)一次図形の拡大図となることがわかる.角度2θが大きくなるにつれて,拡大の度合いは小さくなる.面心斜方ネットの対称性を保ったまま,パターンは非常に大きく形を変え始める.図示された一連のパターンは,例えば壁紙や織物に適したパターンの豊富な品揃えが,互いに相対的に異なる角度にある2つの同一の周期構造の単純な機械的重ね合わせによって得られる可能性があることを示している.この可能性を考えると,一連の疑問が湧く.例えば,同一の周期構造の負あるいは正の重畳によってどんな効果が得られるだろうか.実験を上記に記述したパターンで行うと,二次的に生じた6角形の各中心に暗い丸点が形成されることが判明した(図161).

 

図161

特に興味深いのは,異なる図形を重畳したときの,対称性の相互作用に関する問題である.一般的な重畳と同一対称類の等価系の重畳,右手と左手系パターンあるいは異なる色に塗られた図形の相互作用などである(図162).
これらの疑問は,ほとんど研究されたことがないが,我々は複合系の対称性原理を使い,これらを調査してみよう.この原理は12章で紹介する.

無限のパターンの重畳の結果として得られる二次的形の多様性にもかかわらず,等式$$λ=2dsinθ$$は変わらずに残る.そこでは,同じネットが2つの
のパターンが選択され,かつ,角度$$2θ$$があまり大きくない場合には

図163(正の左手系パターンを負の右手系パターンの上に重畳)では,第二次パターンが一時のパターンの基底である正方格子を再現しているのがはっきりわかる.後者は黒が正,白が負の小さい3角形の行からなる.

網目の拡大率(すなわち$$d/λ$$の比)と角度$$2θ$$は互いに密接に相関している図から決定され,この式が問題のケースに適用可能であることを示している.

結論として,周期の異なる2つの縞模様の平行重ね合わせを考えてみよう(図164).
このケースは,音響学,光学,無線技術,その他の波動物理の分野で出会うビート現象幾何学的な描像を提供するので興味深い.
この現象は,同じ方向に移動する波長がわずかに異なる2つの平面波があるとき,二次的に長い波長の波が生じる現象で,音響学的には周期的な音の強弱(ビート)として観測される.
ビートは近似的に調整された2つの音叉を同時に鳴らすことで簡単に作れる.
実際には,2つの同じピッチの音叉の一方だけに,ワックスを貼り付けてチューニングをずらす.

平行な2つのシステムの重畳で生じるビートは,図164に示すように,第1のシステムの2本の連続した縞の間の距離は,$$λ_{1} = 1.91$$ mm;第2のシステムでは,この距離は$$λ_{2}=1.60$$mmである.

これらの2つの量は、一次干渉の波長と呼ばれることがある.
距離$$L=9.86$$mmは,密な隣接距離で,二次的な波長あるいはビート波の波長と同じである.

これらの量の関係をより詳細に検討すると次の式が得られ,既知の$$λ_{1}$$,$$λ_{2}$$から,二次波の波長Lを計算することができる:$$L=\displaystyle \frac{\lambda _{1}\lambda _{2 } }{\lambda _{1}-\lambda _{2 } }$$

網目パターンの重ね合わせ1

技術的な応用●ブラッグの法則 ●干渉

10cm×10cm程度の薄い布(ナイロン,カプロン,絹)を2枚重ねて,繊維が小さな角度(5°-10°)で交差するようにする.これを2枚のガラス板の間に挟み透過光で全体を観察すると,モアレパターンと呼ばれる自然界で広く見られる現象(科学技術で頻繁に利用される)が観察できる(図151).モアレパターンの対称性乱れは,干渉を起こすネットの不完全性に起因するものである.もし,これらが完全に規則的なネットならば,不規則なモアレではなく規則的な二次パターンが現れる.この現象は,写真印刷などで,ガラス板の上に細かい黒格子が描かれたスクリーンを通して写真を撮影するハーフトーン印刷で見られる.

 

 

Fig.151

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし,「スクリーン効果」は必ずしも作品の邪魔をするものではなく,布地や壁紙などで優れたパターンを作るために使われることもある.
■2 つの無限平面パターンを重ね合わせたときに,どのようにして二次的なパターンが発生するのかを理解するために,最も単純な例として2 つの同一な平行縞を重ね合わせた場合の例を見よう.図152に示すように,2つの1次元縞の相互作用(干渉)の結果,一次の縞(元の縞)の繰り返し周期よりも大きな繰り返し周期の二次的な幅広の縞が生成される.実際には,これらの二次的な幅広縞は,一次の縞によって形成されたジグザグに過ぎない.一次の縞の間隔を,目で解像できない程度(0.1mm以下)まで小さくすることで,二次的な縞だけが見える画像が得られるが,これは一次の縞の一つを拡大したものになる.
一次縞周期(一本の縞の幅+縞間の間隔)を$$λ$$,二次縞周期 を$$d$$,一次縞系が交差する角度$$2θ$$ とすると,簡単な計算で,$$λ=2dsinθ$$ が得られる.
すなわち,一次縞周期は,二次縞周期の2倍に一次縞間の交差角度の半分の$$sin$$を乗じた値に等しい.

 

 

 

Fig.152


結果として得られる式は,よく知られているブラッグの法則と全く同じになる.ブラッグの法則中の量λはX線の波長であり,$$d$$はX線を反射する結晶の原子網面の間隔,$$θ$$は入射X線と反射面の間の角度である.
このアナロジーで,結晶構造の幾何学のX線による研究を,モアレ現象に還元することができる. [例えば,Bollmannの本(1970)を参照]

 

 

 

 

 

 

 

■今度は,平行縞の2つの系を2つの同一正方形の網にしよう.交差角2θが十分小さな角度なら,2次的に生じる像は,最初の網を単純に拡大した,少しぼやけた像になる(図153).

 

 

 

 

図153

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一次の系の網目4角形の辺は,以下のように計算できます.
一次ネットと回転した一次ネットを重ねて生じる二次のネット網目の寸法に関しては,既に述べた1次元での関係がやはり成立します.

上記の2つのケースの図柄の重ね合わせで,角度$$±2θ$$の小さな角度で重ね合わせても,$$180°±2θ$$で重ね合わせても違いがなかったのは,図柄に2回回転対称性があるためである.
2回回転対称のない図形,例えば,3角形の系(図154)を重ね合わせるとすると,この二つの回転角度の効果にはかなりの差がでる.

小さな回転角$$2θ$$では,二次的な絵柄(図155)は楕円の系のようなものであるのに対し,回転角$$180±2θ$$では,二次的な絵柄(図156)は三角形で構成されて,一次的(元の)な絵柄の拡大と考えてもよい.

 

 

 

 

 

図154

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図155

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図156

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図157



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図158

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詳細に検討してみると,角度$$2θ$$が十分に小さく,一次パターンが周期的に繰り返される小さな素図形をかなりの数持っている場合には,$$180°±2θ$$の角度で2つの同一のパターンを重ね合わせると,無限の対称平面パターンが拡大された形で得られることがわかる.
実際には,これらの条件を満たすことは非常に困難なことが多いので,この実験は最も単純な種類の素図形でしか合理的な成功はしません(図157と158).

壁紙模様の対称性とその心理効果★

人間は様々な用途で無限に繰り返す平面パターンを使います:壁紙,寄せ木細工,タイルの床,瓦屋根,陶器や装飾石の壁,レンガや敷石,道路や広場の舗装,色織物,カーペットや編物,同一物の密な充填,金属やプラスチック板から標準物を大量に打ち抜く,その他の多くの分野で利用されます.

自然界の網目パターンは,魚の鱗,生体組織の細胞,ハチの巣,マツカサの鱗片,などの配列で見られます.特に興味深いのは,結晶中の,原子・イオン・分子が配列した網平面です.もちろん,これらを直接見ることはできませんが,X線や電子線の回折や,走査型顕微鏡を用いて観測できます.
網目パターンから受ける印象を分析すると,芸術家が特定の視覚効果を伝えるために,特定の対称性クラスを意識的に選択する法則を確立できるかも知れません.

例えば,斜交する並進軸を持ち,対称面を持たないパターン(図112)は,斜め方向の動きを強調したい場合に適しています.

 

階段,ロビー,エスカレーター,地下鉄の傾斜トンネル,アーチ橋のフェンスなどの壁を飾る際に,芸術家はこの問題に遭遇します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図117                  図121                  図123

水方向の並進軸はあるが,垂直方向の対称面を持たないパターン(図115,117参照)は,特定方向として水平面に沿った動きを強調しているので,地下鉄や回廊の水平通路の装飾に用いると成功します.対称面があると,それらに垂直な方向への運動を止めます.例えば,図121,123などのパターンは,水平方向には静止しているように見えます.図121では,2回軸が存在することで,上下方向への運動の概念が生まれますが,図123では,それらの回転軸が存在しないので,上方向,あるいは一般的に,垂直な一方向の運動の印象を与えています.
図121は,回廊の水平な床や天井の装飾にふさわしく,図123は, 地下鉄の昇降路の床や天井の装飾に適しています.

 

 

 

 

 

 

 

 図128           図130           図137           図147

水平や垂直の対称面のシステム(図128,130,137,147)がいくつか存在することで,静止休息,記念碑性,不動性,重力などの印象を醸し出します.興味深いことですが,(b:a):2・m型の対称パターン(図128 と 130)は,長い間,壁紙に使用されてきました.そして,図137や147に示すようなさらに対称的なパターンは,寄せ木,天井,ステンドグラス窓などには使われました.
奇妙な静止のない印象は,主要部分に映進面がある対称パターン(図116と120)で生み出されます.言葉でうまく表現できないのですが,これらのパターンの中の図形が,押し合い,転がり,絡み合い,群がって動きがあります.

 

 

 

 

 

 

 

           図116                    図120

このタイプの対称性は,他の対称性よりも出会う頻度は少ないのですが,それは,他のものよりも構成や認識が困難であるためで,例えば,見本市会場や遊歩道などのデザインに利用されることがあります.

 

 

 

 

 

 

 

   図132            図139              図145

特に興味を惹くのは,対称面がなく,3,4,6回回転対称軸で特徴づけられるパターン(図132,139,145)です.このようなパターンは,そのダイナミックさから,ダンスホールなどの大勢の人が無秩序に動くことを想定した施設の床や天井に適しています.図116のようなパターンと合わせて,文化公園の広場やサーカスのテントのアリーナ,フローティング・パネルなどの装飾に使用されています.全体として静止休息の奇妙な印象と細部に見られる動きは,普通の対称面と映進面が交互に繰り返すパターンのせいで生じています(図12,135,142).静止休息と運動の印象のどちらが支配的になるかは,フレーム・ワーク(垂直,水平線に)に対するパターンの方位に大きく依存します.

 

 

 

 

 

 

 

   図135            図142

例えば,図12はこの本に掲載している向きでは,動きの印象が静止に打ち勝ってしまう.特別な注意を払わずにパターンを見ると,対称面を見落とすのです.
一方,図12と同じ対称性を持つ図135は,動きよりも静止の印象が打ち勝ってしまう.それは,本を普通に置いたときに,パターンの対称面は垂直・水平線に沿ったフレームに平行であるからです.
観客が網目パターンを見たとき生じる印象に対称性が演じる役割について詳しく述べてきました.明らかに,対称性が美的鑑賞の唯一の要因ではありませんが,パターン構築の基礎となる法則を明らかにすると,装飾美術で対称性の果たす役割は,デッサンで遠近法が果たす役割と同じです.

 

■最後に,私が気に入っている映進面のある軽快な歩道タイル張りの写真を掲載します.美しい幾何学(技術評論社)p.93より